この世に未練ありますか?/パレード

映画

パレード(2024年、日本)

大災害の混乱で離れ離れになった息子を捜す母親は、自分がすでに死者となっていること、そして今いる世界が、この世に未練を残した者たちが集まる特別な場所だということを知り…。

ネットフリックス公式サイトより
熊野堂
熊野堂

冒頭は東日本大震災を想起させる大災害ですが、災害が主題ではありません。誰にでも訪れる生と死をテーマにした入り込みやすい作品です。今の生き方を見つめ直す機会になるかも。ちょっとどこかで見たような既視感もありますが。「映画」ではありますが、ネットフリックスオリジナルで、配信のみ。劇場公開はありません。

お薦め度 

ポイント

・映画とドラマ

・この世への未練

・誰かのために

・映画を作る

映画とドラマ

 映画とドラマの違い、分かりますか?結論から言うと、僕はいまいち分かっていません。作品性や長さ、一話完結かどうかでもないし。これまで劇場公開するのが映画、テレビのみはドラマだと思っていました。ただネットフリックスの出現で、その理屈は通じなくなりました。ネットフリックスはオリジナルのドラマだけでなく、映画も配信しています。劇場で公開されないけど映画なのです。とういうか、ネットフリックスは一話ものを映画、連続ものをドラマと定義しているようにも思えますが。

 違いとして制作期間の長さ、予算などを挙げる人もいますが、どうもしっくりきません。この違い、純文学と大衆文学の論争にも似ている気がします。純文学は芸術性が高く、大衆文学はエンターテイメント性が高い。純文学の方が何か高尚だという世間の風潮。当てはめるなら映画が純文学、ドラマが大衆文学というところでしょうか。

 これにも疑問を感じます。芸術性の高さやエンタメ性の高さは、ジャンルの問題でしょうか。純文学作品にはエンタメ性が高いものもあるし、大衆文学に区分される作品でも芸術性が高いものもあります。本当に良質の作品、深くておいしい作品はその両方を兼ね備えています。例えば世界文学の最高峰の一つ、「罪と罰」は生死や愛、再生など普遍的で深いテーマがあり、ミステリー的なエンタメ性もあります。ジェットコースターのように何も考えなくても、楽しんで結末にたどり着くような作品はエンタメ性が高いけれど、浅い。それはそうかもしれません。でも難解であれば深いわけではない。

 映画とドラマ、純文学と大衆文学、これらを分ける必要があるのでしょうか?

この世への未練

 この世への未練を残したまま死んだ者たちが集まる場所がある。それがパレードの設定です。え?だったら大抵の人はこの世に未練がありながら死んでいるのではと思いました。みなさんはどうでしょうか。

 訃報が相次いでいます。政治学者、歴史学者の五百旗頭(いおきべ)真氏が突然亡くなりました。つい最近、インタビュー記事を読んだばかり。能登半島地震からの復興にまだまだ提言したいことがあったのではないでしょうか。マンガ家の鳥山明氏も亡くなっていることが分かりました。まだまだ新作に意欲を見せていたそうです。

 僕は比較的、未練は少ない方だとは思いますが、明日急に死んでしまったら、やり残したことは結構あります。毎日全力で生きているようで、できていないことはあります。ゴールが明確になっていたら、逆算してそれまでにやっておきたいことはやろうとするとは思いますが。それでもどれだけ果たせるか。

 パレードの世界があるとすれば、亡くなった人の大半がそこにたどり着いているのではないでしょうか。

誰かのために

 作品には元やくざ、元映画プロデューサー、テレビ記者などさまざまな職業、そして立場の人が登場します。群像劇のスタイルです。誰か感情移入できる人がいれば、作品は楽しめると思います。一つ一つはそこまで深掘りされないため、物足りなさも感じるかもしれませんが。

 僕が好きなエピソードは、息子を探す母親(長澤まさみ)が仲間の力を借りて(それがタイトルにもある月1回のパレード)、子どもに出会うことができました。熱を出して苦しんでいた子どもと話す母親。この子役の演技が素晴らしく良かったのですが、セリフもいいんです。みんなの助けで出会えたのなら「今度は誰かの力になってあげて」(的な)と母親に話します。

 未練は自分の欲望のこともあるでしょうが、子どもやパートナーなど、誰かのためのものが多いはず。普段から誰かのためにを意識できていれば、未練も減るかもしれませんね。

映画をつくる

 映画とは何かが解決していないのですが(笑)、作品を通じ映画が重要な役割を果たしています。登場人物にリンクした劇中劇、元映画プロデューサー(リリーフランキー)の映画づくり、ラストの展開。これを観ると映画が作りたくなるかもしれません。

 実は映画研究会に1年だけ所属していました。制作側なんですが、人手が足りず主演したこともあります。映画は総合芸術。いつか一本作ってみたいかな。これを達成せずに死んでしまったら未練が残りそうです。

編集後記

 スポンサーでなく(広告の収益もありますが)、配信料で制作費をまかなうネットフリックスは自由度も高く、オリジナル作品は面白いものが多いです。テレビでもよくCMしてますが、今後劇場映画やテレビとの関係性はどうなっていくのか。新たな表現の場として注目しています。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA