アオアシ36(小林有吾)
バルサのお家芸であるポゼッションサッカーに対応できず、劣勢に陥るエスペリオン。そんなチームを救ったのはエース・栗林。卓越したテクニックで流れを一気に引き戻す。エスペリオンに流れが傾く中、かねてから福田監督が仕込んでいた「秘策」が発動して。試合が大きく動く。
本書カバーより
完結していない作品を新作が出るたびに取り上げるのはやめようと思いつつ、実際にやめていたのですが、やはり語らずにはいられない。アオアシは継続的に購入しているほとんど唯一のマンガ作品。サッカーが題材ですが、他のスポーツにもビジネスにも、人生にも通じるものがあります。サッカーを知らない人もぜひ。
お薦め度
あなたはプロですか?
本書の帯にあるキャッチコピー。「プロ」になりたい全ての人へー。サッカーを前提に書いてあると思いますが、サッカーに限らず、あらゆるプロの世界に通じる神髄のようなものがこの作品には詰まっています。主人公アシトはプロサッカーチームのユースに所属する高校1年生。ジュニアユース(中学年代)から昇格してきたメンバーが中心の中、高校から入ったアシトは最初、周囲のレベルのついていけないのですが、やがて才能を開花させ、ステップアップ。ついにプロチームの練習に呼ばれるほどになります。でも、そこでプロの壁に当たります。本当はない壁。「プロ」がゴールだと生まれてしまう壁です。
プロで成功している人は常に頭をフル回転させ、判断を繰り返しています。プロ中のプロの大先輩に出会い、さらに成長を加速させるアシト。この姿は他のスポーツでも、ビジネスでも、人生でも起こりうる状況です。マスコミの世界でも少し慣れてくると仕事ができていると思ってしまう人が圧倒的に多い。でも、常に学んでいないとスキルは向上しないし、時代の流れに置いて行かれます。プロになれるのは「考える葦」だけ。派生して「アオアシに学ぶ『考える葦』の育ち方」という本があるようです。
プロの卵たちの激突
36集の舞台はカタール。世界のユースチームとの国際大会に挑んでいます。初戦で当たったのが世界屈指の名門バルセロナ(スペイン)ですが、他にもレアルマドリード(スペイン)、バイエルン(ドイツ)、アーセナル(イングランド)など世界10指に入るようなチームが終結していて、きっとスカウトも目を光らせているという大会です。
名門なのはあくまでプロのトップチーム。そのユースにいるということは、高校年代ではトップクラスに上手い。何度も厳しいふるいにかけられ、それでも残った精鋭です。それでもプロへの道が保証されるわけではありません。トップとユースの差は大きく、ユースからトップ、しかも世界の名門でプレーするのはとてつもなくハードルが高い。なので名門のユースもアピールに必死です。日本では格上の扱いを受け、強豪でも同格という立場にいたアシトのチームもここでは挑戦者。しかも、相手は格上の上に、生き残りに必死。この試合がどちらの成長に大きく寄与するのか。ゲームに加え、そんな視点で読むとより面白くなると思います。
W杯プレイバック
最適なタイミングでの猛烈なプレスにより、ヘッドダウンさせる。オールコートマンツーマンでポゼッションを崩す。これが福田監督の作戦です。ヘッドダウンは文字通り、頭を下げる。視線を下(ボール)に落とすこと。これで、視界が狭まり、最適のパスコースを選択できなくなります。
カタールワールドカップ。日本はスペイン戦で相手GKに猛烈なプレスを仕掛け、ヘッドダウンを起こさせます。中途半端なパスをDFに出したところを日本が刈り取り、得点を奪います。実はこの時、スペインの前線左サイドにフリーの選手がいました。もし、ヘッドダウンせずにGKがこの選手を見つけられていたら、そこにロングボールを蹴っていたら、試合は全く異なる展開になっていたはずです。得点と失点は表裏一体。でも、動かなければ何も起こらない。これもビジネスに通じると思います。
エースの行方
前半終了間際に同点に追いつき、押せ押せのエスペリオン。作品中最強キャラと言えるエースの栗林は、バルサからも「バルサで主力になれる」と認められるほど実力を発揮しています。でも、後半はバルサの真のエースが登場。栗林が同世代で唯一負けたと語る選手、デミアンの登場で試合はどう動くのか。栗林は最強でいられるのか。強いながらも怖さを発揮できないバルサは、真の恐ろしさを見せるのか。どうも厳しい展開になりそうな次巻から目が離せません。
編集後記
部活にしても、趣味にしても、仕事にしても。世界を相手にするどころか、全国も相手にしたことがありません。若い世代から世界と戦える主人公たちに興奮するし、うらやましさも感じます。そして、まだまだ自分にもできることがあるという熱もわき上がる。中高生と同じ目線で読んでいるアラフィフでもいいですか?