この面白さをどう伝えたらいいのかの処方箋/小説の読み方

実用書

小説の読み方(平野啓一郎)

ちょっとした着眼点の違いで、小説はもっと面白くなる。本書は「蹴りたい背中」「ゴールデンスランバー」など、現代の純文学やミステリー、古典などを題材に、作品をより深く楽しく味わうコツを、人気小説家が分かりやすく解説。小説を読んだ後、SNSで作品の感想を書いたり、意見交換できるようになる1冊です。

PHP文芸文庫カバーより

「習わなくていいことをわざわざ習うな」という格言ではないですが、考え方があります。僕も基本的にはそうで、小説の読み方なんて習うものではない。感じるままに読めばいいと基本的には思っています。が、面白さを伝えられないもどかしさもある。この本はハウツーものではなく、小説をより面白く読むコツがつかめると思います。

お薦め度 

ポイント

・読み方指南

・究極の述語への長い旅

・効率と対極の世界

・お薦めは「罪と罰」

読み方指南

 小説なり、本の読み方というジャンルの本は世の中に結構あります。個々の小説を解説した本もあります。またそれとは少し違って、名作はざっくりこんな話ですよと紹介した本もたまにヒットします。

 本好きにとって読み方の本は結構面白い。なるほど、こんな風に読めばもっと面白いのか、こうした歴史、文化の背景があるからこんな作品になっているのかと、作品を一読するだけでは分からない部分に触れられ、もっと深く本が読める、と感じるからです。

 平野さんは同世代の有名人で、当然名前は知っていました。ただ、どうもいけ好かない奴だなぁという先入観があって、今まで読んだことはありませんでした。同僚に彼のファンがいて、ちょっと興味を持ったけれど、最初の1冊との出会いがない。そこで、小説の読み方を説いていることを知って、ここからならと。芥川賞作家なのに、その小説を読まず、まず小説の読み方の本から手にしてしまうことになりました。

 まず、取り上げている作品が幅広いのがいい。ポール・オースターやミルチャ・エリアーデら全く読んだこのない海外作家から、綿矢りさや瀬戸内寂聴など文学の有名どころを世代を超えてピックアップしているほか、エンタメ系の伊坂幸太郎ケータイ小説まで取り上げています。堅苦しい文学作品を論じるだけなら、手に取らなかったでしょうが、こんだけ幅広い作品を語ってくれるなら、気が合いそうだと先入観を打ち消すことができました。

 そして、本人の作品「本心」も紹介されていて、まんまと買ってしまいました(笑)。先週紹介したのがそれです。

究極の述語への長い旅

 読書という長い旅の目的地は何か。〇〇は〇〇だ、という自分なりの述語が得られればゴール。これは実に分かりやすい。「走れメロス」を手に取ったとして、そこから「走れメロス」は〇〇だという矢印を追いかけることになります。これがどんな物語が知りたいという欲求がページをめくらせます。

 主語と述語、登場人物が主語になるわけですが、作品全体を俯瞰的に見る方法として、作者はこんな提案をしています。それぞれの登場人物を主語とする文章を色分けしてみると、小説全体の中でどのくらいの量の言葉がどの人物に割り当てられていて、どれくらいの頻度で登場し、どんなふうにそれぞれが絡まり合って、プロットが進行していくかが目で見て分かるようになる。

 逆に主語化された固有名詞を真っ黒に塗りつぶすと、述語だけが互いの区別を失って渦巻いている世界が出現する。誰が何を言って、何をしているのかが分からない。しかし、丁寧に読むと、個々の述語によって、互いに対立したり、共感したり、場面が変わったり、高揚してきたりする様が何となく分かってくる。

 なるほど、小説を分解して解釈するにはこのくらいしてみると、たしかに構造は良く分かりそうです。あくまで通して読んだ後ならですが。

効率と対極の世界

 言葉の速度を意識したことがあるでしょうか。どんどん速くなっています。何事も効率化が進んでいます。現代社会において効率化は避けられません。僕のいるマスコミもそうです。世界の情報処理量があまりにも膨大で、効率化がないと対処できないのです。

 猛烈なスピードについていけない言葉、事柄はどんどんふるい落とされていきます。しかし、そのこぼれてしまうものこそが文学のテーマになる。(少し書き方は違いますが)作者はそう語っています。文学は効率が悪いのです。それでいいのです。そこにこそ、文学の必然があります。

 地方新聞もそうだと思うんですよね。効率化、都市への一極集中、地方がどんどん切り捨てられていく中で、地方でもさまざまな日常が切り捨てられていっている。こぼれたものを拾って、もう一度その価値を見つめ直してみようといえるのは僕の仕事なのかなと。小説の読み方を読んで、新聞、記者のあり方を考えてしまうのは職業病なのですが、、、。

お薦めは「罪と罰」

 お薦めは「罪と罰」と言ってみたい。名作文学も最近の芥川賞作家も、映像化されるようなエンタメ作品も直木賞作品、本屋大賞受賞作などもいろいろ読んでいますが、お薦め作品を問われると答えるのがなかなか難しい。単純に自分が面白いと思った作品を言えばいいのか、質問者の好みに合うような作品を紹介すべきなのか。

 1作品だけ選ぶのは難しいというのは今も変わりませんが、文学作品ということなら「罪と罰」は間違いなくお薦めです。かなり長くて、登場人物の名前は覚えにくく、セリフも異常に長い。そういった読みにくさはあるのですが、作品タイトルは誰もが知ってるのに、実は読んだことのある人は少ない。僕も大学時代に図書館で読んだきりなのですが、名作文学のアレルギーが吹き飛ぶ強烈さでした。

 冒頭はいきなり殺人を計画するミステリー、刑事コロンボのような心理戦、家族の愛情、恋愛、そして罪と罰とは、深いテーマをぐいぐい引っ張っていく。これを読まないままでいるのはもったない。「罪と罰」もこの本で紹介しています。

編集後記

 芥川賞作家がどうやって小説を読んでいるか。読みやすい展開に「知りたい」が止まりませんでした。自分の引き出しが広がるのを感じます。小説の読み方については「天気の好い日は小説を書こう」(三田誠広)もお薦め。こちらも芥川賞作家です。

 

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