緋色の研究(コナン・ドイル、駒月雅子訳)
従軍から帰国し、ロンドンで同居人を探していたワトスンが紹介された不思議な男。アフガニスタンに行っていましたねーー。初対面でそう言い当てられ、度肝を抜かれたその男こそ、怜悧な観察眼を備えたシャーロック・ホームズだった。若き日のホームズとワトスンがベイカー街221番地に一緒に住むことになったいきさつと、初めて二人でとリンクだ難事件を描く記念碑的長編。
角川文庫カバーより
言わずと知れた世界の名探偵シャーロック・ホームズ。でも、名前は知っていてもどんな人物か本当に知っていますか?さまざまなミステリー小説、マンガに多大な影響を与えたホームズの魅力が伝わる長編。ミステリー好きも名探偵コナンで育った世代もぜひ読んでほしい。色褪せない名作。
お薦め度
読書の原点
小学3、4年生の頃、夢中で読んだシャーロック・ホームズシリーズ。少年探偵団シリーズやルパンシリーズとともに、読書の楽しさ教えてくれた作品です。それなのに我が家にはこれらのシリーズが1冊もない。実家にもない。当時は全部、学校の図書室で借りて読んでいたため、手元に残っていないのです。今でも影響を受けているシリーズ。久しぶりというか、40年ぶりくらいに読んでみたいと思って購入しました。
格好いい?偏屈?
この40年の間、ホームズは読んでいなかったけれど、アニメ、映画、ドラマとさまざまな媒体で絶えず触れ続けてきました。最近ではホームズの妹が主人公の映画も観ました。なので、そこまで久々感はなかったのですが、あらためて読んでびっくり。ホームズってこんなに偏屈だったけと。映画ではそんなキャラクター設定もありましたが、これは映画なりのアレンジだろうと思い込んでいました。どうも知らない間に、ホームズ像が紳士的に変換されていたようです。推理に必要なのない知識はほぼゼロ。政治にも関心がないし、気持ちの浮き沈みも激しい。社会に適応できないタイプの人間です。
でも、初めて会ったワトスンの様子を見て、即座にアフガニスタンから帰還した見抜く観察力、ほんの少しの手がかかりから事件の全体像を読み解く推理力。やっぱり探偵として格好いいホームズは記憶のままでした。奇異な事件は推理の妨げになるどころか、手掛かりになる。通常物事を考える時は、順序立てて積み上げ、結末に至る。ところが、事件の推理は結末からスタートする。この思考方法は日常生活でも役立つはず、だができる人はそう多くないでしょうけど。
脇役の魅力
そんな困ったちゃんなホームズの魅力を引き出すのが同居人で、助手のワトスンです。そもそもホームズの物語はワトスンの手記として展開されます。ワトスンのどうして?なぜ?と疑問を持つポイントが読者目線で、かつ事件のポイントを簡潔によくまとめています。ワトスンは医者なので、基本的な知力は高いんですね。推理力は高くないけれど。僕も小学生時代、ホームズはすごいと思っていたけれど、同時に僕自身はホームズになれないとも思っていました。僕の生きる道は天才を生かすワトスンだと。それは今も変わらないですね。今回読み返して、あらためて思いました。イメージの問題でいえば、ホームズを頼ってくる警部がそれほど友好的でもなかったのも、記憶とずれていましたね。まあ部外者の探偵が事件解決したら、警察の面目丸つぶれなので、その方が自然ですよね。
作品の中で新聞広告が犯人逮捕に大きな役割を果たします。この方法はホームズの派生作品でもよく利用する作戦。もう100年以上前、当時の新聞の影響力は大きかったのでしょう。今なら見てもらえるかどうか分からないので、成立しないかもしれません。
謎の経済性
探偵はたいして儲からない。そもそもホームズとワトスンの出会いも、住みたい部屋があるけれど、1人で借りるのは経済的に厳しいと、ルームメイトを求めいたことがきっかけ。探偵はビジネスとしてはなかなか成立しないのかも。他の探偵ものでも、もともと金持ちが趣味的に探偵をしていることはあるけど、それ以外はそんなに金持ちの設定はないですよね。どうやって事業を回しているのかが気になるのは大人になった証拠でしょうか(笑)
編集後記
久々に読んでみましたが、やっぱり面白い。でも、記憶とはかなりずれもありました。緋色の研究は前半はいつものホームズシリーズ、後半は事件の背景を描く全くといっていいほど別の物語。犯人が極悪人ではないという設定もこんな昔からあったんだなと。ミステリーの原点が詰まった作品は色あせていませんでした。同じく、ホームズを夢中で読んでいた友人は、新婚旅行でホームズの住んでいtベーカー街を訪れました。その時のお土産は今も我が家の玄関を飾っています