投資なんて自分には関係ない?考え直しては/波のうえの魔術師

小説

波のうえの魔術師(石田衣良)

 あの銀行を撃ち落とせ!謎の老投資家が選んだ復讐のパートナーはフリーターのおれだった。マーケットのAtoZを叩き込まれた青年と老人のコンビが挑むのは、預金量第3位の大都市銀行。知力の限りを尽くした「秋のディール」のゆくえは。新世代のクライムサスペンス。

来年から新NISAが始まります。知ってますか?今、にわかに投資熱が高まっています。でも、大半の人は未経験。この作品は新NISAの参考には基本的にならないですが、株取引をエンタメで学べる要素はあります。時代に置いて行かれたくない人は勉強を兼ねて読んでおいて損はありません。

お薦め度 

ポイント

・金は汚い?

・デイトレーダーは海賊

・投資の必勝法

・辻褄を合わせる

金は汚い?

 株なんて自分には関係ない。そう思っている人は多いでしょう。私自身もつい数年前までそうでした。その根幹にあるのは金はうしろ暗いもの、汚いものと考えるマインドではないでしょうか。そう思っている人のもとに、金は集まらない。金は目的ではなく、手段。あなたの目的を達成するために、金は不要でしょうか。金を得ないことが目的ならそれでいい。でも、そうでないなら投資を無視するのはあまりにもったいないです。

デイトレーダーは海賊

 とはいえ、金で金を生むのは汗をかかない最低の仕事だと思い込みはそう簡単にぬぐえません。実際、一般的に投資と聞いて想像する、株のチャートをじっと見つめ、売り買いを繰り返すデイトレーダーはまるで海賊のようにも見えます。船による交易が盛んだった時代、各船は身を守るために武装した護衛をつけることがありました。そのうち、交易がさらに盛んになり、行き来する船が増えてくれると物を運ばず武装を専門にして、荷をつまず奪う船が出てきました。海賊です。投資は基本的に企業を応援して、成長した企業から投資家が恩恵を得る仕組みです。ところが、こうれだけ投資が世界に広がると、株の値動きだけに注目して、売買するだけで莫大な利益を得ることができるようになりました。なんだか海賊に似ていると思うのは私だけでしょうか。

投資の必勝法

 投資は基本、安い時に買って、高くなったら売る。その差額が利益になります。仕組みは単純。でも、必勝法はありません。そもそもいつ下がって、いつ上がるのか。誰も分からないからです。ある程度予測できるものもありますが、マーケットの行方は達人にもそうそう読めるものではありません。ただ、負けにくい戦い方ならあります。リスクの分散です。何度も分けて売買することで、株価の平均値を誘致にし、点でなく、線で勝負する。これは基本中の基本です。投資を知らない多くの人は、一発勝負を想像するでしょう。一気にもうけるには、その方がいいのも事実です。でも、負けない戦い方で長期戦に持ち込めば、じわりじわりと成果が上がる。そんな投資もあるのです。新NISAが向いている戦い方も長期戦です。私の投資も爆発的に増えませんが、じわじわ成果を上げ始めています。

辻褄を合わせる

 でも、じわじわと成果を上げる戦いでは、小説として全然面白くない。作品の戦い方は私のなんちゃって投資とは一味も、ふた味も違う。「空売り」という手法があります。信用取引で、手元に株を持っていないのに「借りて売る」手法です。そんなの何の得があるのか。株価が高く、これから下がることが予測される時に「空売り」して、予想通り株価が下落したところで買い戻して利益を得る。これで「空」の辻褄が合う。例えば1000円で株を空売りして、800円に下がった時に買い戻すと200円が手元に残る。単純に説明するとこんな感じ。もちろん、株価が上昇すれば損をする。絶対の必勝法ではありません。だから、作品の中の投資は手に汗握る展開が続きます。

 作中の社会的な事件は実際にあったことをモデルにしている。投資をしていると、世の中のことにも敏感になるので、ニュースの見え方も変わるはずです。

編集後記

 20年前に初めて読んだ頃は、株に全く興味がなかったため、サスペンスとして楽しみましたが、今はミニ株主。自分の株だったらとドキドキしながら読むと、より楽しめました。もっとも、自分の株では悪いドキドキは勘弁願いたい。周囲にはなかなか投資の話ができる人がいない。新NISAで投資が当たり前の日本は到来するのか。する人、しない人の格差は確実に開くことになるでしょう。

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