BE BLUES1~49(田中モトユキ)
小6の一条龍は天才サッカー少年として才能を開花させ、全国に羽ばたこうとした矢先に友達(青梅優人)をかばって事故に遭い、日常生活への復帰さえ難しいほどの大けがを負う。2年間のリハビリを終え、中2の途中でフィールドに復帰するが、かつてのボールタッチは失われていた。それでも持ち前の戦術眼、判断能力の高さなどを武器に、今できるプレーで再び日本代表を目指して走り始める。ライバルでもう1人の天才少年、桜庭巧もプロのジュニアユース(中学年代)に加入しながらも協調性のなさで伸び悩み、ユース(高校年代)への昇格を逃す。2人は同じ高校で再会。それぞれの課題に向かい、周りを巻き込みながら成長していく。サッカー漫画。11年間の連載を終え、49巻で完結。
コミックスより
サッカーが好きな人はもちろん、あまりサッカーを知らなくても、前向きに進みたい全ての人に刺さる成長ストーリ^。はるか年下の主人公にこんなに心揺さぶられるとは。
お薦め度
意志の強さ
前向きな主人公は時にうっとうしさを感じることもありますが、一条龍は作品の中で周囲を巻き込んでモチベーションを高めていくだけでなく、読者のテンションも高めてくれる存在です。小6での事故はもう日本代表を目指す選手にとっては再起不能といっていいほどの重傷。それでも、それまで描いていた道とは違うルートで同じ目標にたどり着こうと、徐々にできることを増やしていきます。本当に困難が多くて、上手くいったと思たらまた新しい壁が現れる。でも、向上心が尽きない主人公にとって、それは最適の環境。読む方も何度も絶望しながら、何度も希望をもらえる。これを繰り返せるのは作者のメンタルも強いからかもしれません。
自身がまだベッドから起き上がれないころに、事故の原因をつくってしまった親友・優人を「また一緒にやろう。サッカーをやめるな」と励ますシーンに一条の強さを感じます。おとなしくて並の選手だった優人もやがて強豪高校で欠かせない選手となり、プロ、日本代表を目指すことになります。このように意志の強さは、周りに伝播していきます。社会人も学ぶことが多いはずです。
神童の未来
もう一人の主人公が、桜庭巧。超絶のテクニックを持ちながら、独りよがりのプレーでジュニアユースではうまくいかず、ユース昇格を逃します。高校でも技術は圧倒的ですが、ドリブル突破のみにこだわるプレーはやがて壁にぶち当たります。かつてのライバルで、一時は大きく差をつけていた一条龍の成長、現在の自分との実力差をようやく認めた桜庭が変わり、チームに貢献する姿は作品のハイライトの一つです。
桜庭は2年生ながらプロチームの練習に参加するまでに成長。そこでの監督とスカウトの桜庭評がとても腑に落ちます。監督は桜庭をポーカーの役に例えるとフラッシュだといいます。「強さとしては中の少し上。でも、入団してくる選手は大抵ツーペアかスリーカードなので、実力はかなり高い。しかし、フラッシュは全部のカードが同じ種類(スペードならスペード)でなくてはならない。いじると崩れてしまうかもしれない。そうして伸び悩んでいる間にツーペア、スリーカードの選手がフルハウスなどに成長していく。これが世の常だ」。
サッカーでは10代のころ、天才と呼ばれた選手がプロになると活躍できないことが多々あります。そこそこ活躍しても、代表レベルではなかったり。その点をすごく分かりやすく説明しています。ただし、スカウトは「フラッシュでもロイヤルストレートフラッシュになる可能性を秘めている」と評価します。作中で桜庭がそこまで進化するのかも注目です。
一条と桜庭の才能を認め、成長を促すミルコ・コヴァッチ監督の手腕もみどころです。あきらかにオシムの影響を受けたキャラクターです。
高校とユース
サッカーマンガでもう一つ推しているアオアシはユースが舞台。ユースは少数精鋭のエリート集団なのに対し、強豪の高校はチームがいくつもつくれるほどの選手を抱え、レベルもさまざま。一条が通う武蒼高校も試合に出られるAチームに昇格できずに卒業する選手が多数います。高校から見たユース、アオアシではユースから見た高校が描かれ、その対比も面白いです。
作中で一条や桜庭、先輩のレノンなどはプロチームの練習に参加するほど、実力を認められます。ただ、プロチームはユースで自前の選手を育成している。「同等ではだめで、明らかに上回る力を示さないといけない」と高校から直接プロにいく厳しさにも触れています。もっとも、ユースからプロに直接いける選手も少ない。大学を経由してプロになるケースが増えています。18歳からプロになるか、22歳でプロになるか。大学で成長してからプロになるのはいい選択ではあります。代表にまで選ばれている選手も多い。でも、選手寿命が短いサッカーで、4年間の差は大きい。海外では10代でいきなりプロの強豪チームで活躍する選手もいます。日本でも20歳そこそこで海外に出ていくケースが出てきました。育成をどう考えるか。アオアシともそういう視点で読んでみるのも面白いです。
W杯がいよいよ開幕。かつては日本代表も高校サッカー出身が多かったですが、今はユースが増えた印象ですね。レギュラークラスで高校出身は伊東くらいでしょうか。