マンガの実写化はありか、なしか/ゴールデンカムイ

映画

ゴールデンカムイ(2024年、日本)

 舞台は気高き北の大地・北海道、時代は、激動の明治末期―。

 日露戦争においてもっとも過酷な戦場となった二〇三高地をはじめ、その鬼神のごとき戦いぶりに「不死身の杉元」と異名を付けられた元軍人・杉元佐一は、ある目的のために大金を手に入れるべく、北海道で砂金採りに明け暮れていた。

 そこで杉元は、アイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を奪った男「のっぺら坊」は、捕まる直前に金塊をとある場所に隠し、そのありかを記した刺青を24人の囚人の身体に彫り、彼らを脱獄させた。囚人の刺青は全員で一つの暗号になるという。

 そんな折、野生のヒグマの襲撃を受けた杉元を、ひとりのアイヌの少女が救う。「アシㇼパ」という名の少女は、金塊を奪った男に父親を殺されていた。金塊を追う杉元と、父の仇を討ちたいアシㇼパは、行動を共にすることに。

同じく金塊を狙うのは、大日本帝国陸軍「第七師団」の鶴見篤四郎中尉。日露戦争で命を懸けて戦いながらも報われなかった師団員のため、北海道征服を目論んでおり、金塊をその軍資金代わりに必要としていた。

そして、もう一人、戊辰戦争で戦死したとされていた新撰組の「鬼の副長」こと土方歳三が脱獄囚の中におり、かつての盟友・永倉新八と合流し、自らの野望実現のため、金塊を追い求めていた。

映画公式サイトより

マンガの実写化はありか、なしか。ファンにとっては悩ましい問題。基本原作と他メディアで展開される作品は別物ですが、この作品に関してはあり。うまくいっていると思います。原作を知らない人も原作ファンも楽しめる作品では。エンタメを楽しみながら、歴史やアイヌの文化にも触れられます。

お薦め度 

ポイント

・実写化あり、なし論争

・明治の男

・アイヌのグルメ

・北海道の父

実写化あり、なし論争

 原作ものの映像化の場合、必ずといっていいほど起こるのがあり、なし論争。僕自身は映像でも見てみたいと思う派ですが、当然がっかくりさせられた作品も多いです。

 今回、一番心配だったのは主人公の杉元役を務める山崎賢人。正直、大分イメージと違うなと思っていました。山崎はデビュー当時は今一つの演技でしたが、最近はさまざまな作品で活躍していて、キングダムも楽しみに観ています。しかし、成長していくキャラのイメージで、完成された杉元の役と合うか。他のキャストは絶妙に合っているだけに心配でした。ところが、さすが役者。しっかり映画版の杉元になっていました。ここを心配している人は安心してもらっていいと思います。

 アシㇼパの山田杏奈は役年齢と実年齢に差はあるはずですが見事になりきり、変顔のシーンも絶品。脱獄王の異名を持つ白石の矢本悠馬、土方の舘ひろしもコスプレ感なしに魅せてくれます。

 ストーリー的にもうまくまとまっていて、ストレスなく2時間楽しめました。完結しておらず、続編があるのか、ないのか。続編のキャストを見せつつの終わり方だったので、きっと続きが観られるでしょう。

明治の

 明治時代からもう150年。同じ日本でも世界はまったく違います。

 主人公の杉元は戦場で重傷を負っても驚異の回復力を見せ、戦線復帰することから「不死身の杉元」と呼ばれていました。ただ、作中に登場する人物はたびたび結構なけがをしますが、しぶとく生き延びる「不死身」が多い印象です。戦場で鬼神の働きをした杉元ですが、通常は落ち着きがあり、優しい。アシㇼパへの接し方もとても紳士的です。明治の男のイメージとはずいぶん違います。

 個性的なキャラクターの中でも面白いのが白石。関節を外す能力や巧みな話術、観察眼を駆使して全国の監獄から脱出してきました。完全にギャグパートの人物で、凄惨な場面も多い作品が多くの人に受け入れられるのは彼の功績が大きいように感じます。愛知県犬山市の明治村には明治時代の金沢監獄が再現されています。確か白石はここからも脱獄したはず。実際に見てみると作品の雰囲気がより味わえるかもしれません。

 金塊で大切な人を救いたい、新たな国をつくりたい。そうした思いは明治も令和も変わらないようです。

アイヌのグルメ

 アクションが中心ですが、北海道の食材を使ったアイヌ料理が多数登場するグルメ作品でもあります。新鮮な肉や魚を刃物で叩いて細かく刻んだ、たたき肉料理「チタタプ」や汁もの料理、鹿の脳みそや目玉を食べるシーンも。アシㇼパが料理を紹介しますが、アイヌになじみのない味噌に驚く場面も面白く描かれます。狩猟や野草の採取など、生命について考えさせてくれるのも物語の魅力です。

 作中では食べ物への感謝を表すアイヌ語「ヒンナヒンナ」が頻繁に出てきます。北海道には一度だけ行ったことありますが、寿司もスープカレーもちょっとはずれ。今度はもっと美味い店みつけて「ヒンナヒンナ」と言ってみたいものです。

北海道の父

 一般的にアイヌのことはあまり知られていません。僕もほとんど知りません。ゴールデンカムイはアイヌに関心を持つきっかけになる作品です。アイヌと本土の人々をつないだ人物がいたことをご存じでしょうか。

 以前、三重県松阪市を旅行中にたまたま立ち寄った「松浦武四郎」記念館。幕末から明治にかけての探検家です。蝦夷地を探査し、北加伊道(のちの北海道)という名前を考案したほか、アイヌ民族・アイヌ文化の研究・記録に努めた人です。北海道だけでなく、全国を巡っていてドラマ性のある人物。よっぽど熱心に資料を見ていると思ったのか、記念館の職員さんから「研究者の方ですか」と聞かれてしまいました。ついさっきまで、全然知らなかったのですが…。

編集後記

 ゴールデンカムイとは直接関係ないのですが、今原作と映像化の問題が波紋を呼んでいます。僕は原作と映像化作品はタイトルは同じであっても別物だと思っています。原作者にとって作品はすべてを注いだ魂。原作とするからには映像化サイドも尊重するのは当然だと思います。一方で、映像化は作品としては別物。子どもは大事で、こんな風に育ってほしいと思いはあるけれど、どう育つかは子どもの気持ちが尊重される。そんな関係に少し似ているのかなとも思っています。

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