光る君へ、を楽しむために古典は読むべきか/源氏物語

小説

源氏物語(角田光代訳)

約千年前に紫式部によって書かれた「源氏物語」は五十四帖からなる世界最古の長編物語。日本文学最大の傑作を、小説としての魅力を余すことなく現代に蘇らせた。読売文学賞(研究・翻訳賞)受賞の角田源氏。

河出文庫カバーより

今年の大河ドラマは「光る君へ」。源氏物語の作者、紫式部が主人公です。第1回を見ましたが、ちょっと勘違いしていました。紫式部のストーリーの中で「源氏物語」のストーリーが劇中劇的に登場するのかと思ったら、紫式部の話一本なんですね。それでも、物語の背景を知るには「源氏物語」は役立ちます。ドラマをより楽しみたい方はぜひ。

お薦め度 

ポイント

・光源氏は何人?

・源氏物語のなぜ

・平安のジェンダー

・チャレンジ

光源氏は何人?

 「ねぇ、M君。ひかるげんじって何人か知ってる?」。中学時代、クラスの女子が学年1の秀才M君にクイズ?を出していたのを思い出しました。「光源氏が何人もいるものなのか」。困惑するM君を笑う女子。この「ひかるげんじ」は一世を風靡したジャニーズアイドル「光GENJI」。僕らの世代ではもしかしたらアイドルの方が「本家」より有名かもしれません。ちなみにメンバーは7人だったかな?

 源氏物語って知っているようでいて、通して読んだことのある人は少ないのではないでしょうか。僕も教科書や試験問題などで一部を読んだくらい。でも、主なストーリーは知っています。大学時代にマンガ「あさきゆめみし」(大和和紀)を全巻読んだからです。「あさきゆめみし」は僕よりもう少し上の世代で大人気だったマンガ。試験でなぜか源氏物語の正答率が高く、どうもみんな「あさきゆめみし」を読んでいたからだというエピソードがあるくらい。源氏物語を古文で読むのはなかなか厳しい。ストーリーを知るには「あさきゆめみし」が一番簡単だと思います。もうちょっと深く読みたい人に、角田光代版の源氏がお薦めです。

源氏物語のなぜ

 あらためて源氏物語を読んでみると、こんな話だったけ?という部分がいくつも出てきます。大筋のストーリーは同じですが、僕のイメージでは前半の光源氏は完璧超人。できすぎだったイメージがありました。もちろん、超絶美形、芸能にも長け、仕事もできる。たしかに設定は完璧超人なのですが、何事もうまくいくかというとそうでもない。得意なはずの女性の扱いもうまくいかないことがある。悶々と悩む姿は全然超人ではない。「そんなに格好いいかな」と思ってしまいます。

 恋愛の比重も大きすぎます。そういう物語だからといってしまえばそうなのですが、光源氏は官職もあるはずだけれど、どんな仕事をしているのだろう。いつ仕事しているのだろうと感じるほど、ほとんどの労力を男女の関係に費やしているように見えます。まるで、中高生向けの恋愛小説の世界。中高生にとっては恋愛はそれだけ重大なのですが、平安貴族にとってもそうだったのでしょう。戦乱のない比較的平和な時代でもありますし。

 もっとも、それは貴族の話。一般庶民の暮らしはどうだったのか。全く世界観は違うと思います。これが平安のスタンダードではないということは、大河ドラマでも描かれています。

平安のジェンダー

 過去を通じ、今や未来を見つめるのが歴史の面白さ。平安時代のジェンダーもドラマの魅力になる、と思います。まだ1話を見ただけなので分かりませんが。大河ドラマで女性が主人公になるケースは過去にもありました。今回は戦乱の世が舞台ではありません。夫や家族を支える役ではなく、自身が前に出て活躍する話になるのではないでしょうか。

 源氏物語を読んでみると、男女の社会的な役割ははっきり決められているように感じます。でも、江戸時代などとはちょっと違うとも感じます。こうした物語を女性が残していることからも、それはうかがえます。

 新聞記事で読んだことがあるのですが、鎌倉時代の歴史書、吾妻鏡に興味深い記載があります。鎌倉の歴代将軍にある政子の名前です。源頼朝の妻、北条政子ですね。頼朝、頼家、実朝と続いて、平政子になっているそうです。北条家は本姓を平と名乗っていたためです。夫婦同姓は明治に作られた法制度です。伝統的と思われがちですが、歴史を見れば決してそうでもない。平安のジェンダーにも学ぶことがあるかもしれません。

 

チャレンジ

 「光る君へ」はチャレンジ精神旺盛な大河です。定番は戦国時代と幕末。随所に戦乱、チャンバラを入れ込むのが王道でした。あえて無縁のところを攻めています。チャレンジでいえば、昨年の「どうする家康」もかなりチャレンジングな作品でした。こちらは時代設定は王道だけれど、設定が違います。家康の妻、瀬名との物語を軸に、平和を求める新しい家康像を打ち立てました。その試みが上手くいったかどうかは評価が分かれるところで、僕はあまり面白いと思わなかったですが。

 「光る君へ」はあまり知られていない平安時代を描き、しかも1話目から主人公の母が衝撃的な死を遂げる展開。後の物語を動かす仕掛けになることは間違いなく、なかなか期待できるスタートだったのではないでしょうか。源氏物語を読んでいても先は見えません。

編集後記

 50歳を前にして「源氏物語」を読み直すことになるとは思いませんでしたが、大河がいいきっかけをくれました。「自身の好きな作家」「古典・名作」「時事・今話題の本」。読みたい作品に読書量が追いつきませんが、この3本を柱に今年もいろいろ読んでいきます。「あさきゆめみし」を全巻買いしたいところですが、きっと高騰しているんだろうな…。

 

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