障碍とか差別とか、分かろうとするきっかけに

映画

Coda コーダ あいのうた(2021年、アメリカ)

 豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聴こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし・・・。

映画公式サイトより

どうせお涙頂戴のドラマだろうと敬遠する人もいるかもしれませんが、それはもったいない。障碍者本人でなく、その家族という視点が障碍者との壁を少し低くしてくれる。笑って、泣けて、考えさせられる。障碍者とか差別とか、そんなの関係ないよと思っている人にこそぜひ。

お薦め度 

ポイント

・家族の視点

・無音のライブ

・手話言語条例

家族の視点

 障碍者が家族に支えられ苦難を乗り越えるストーリー、ではなく4人家族の中で唯一、健常者、耳が聞こえる女子高生が主人公。コーダとは聴覚障害のある親を持つ子どものこと。幼いころから周囲との通訳を務め、早朝の漁を手伝ってから、通学する。世間では障碍者を家族に持つ大変な子ども、家庭では唯一耳が聞こえることで疎外感がある。この設定が絶妙。まさに障碍者と健常者を映画を通じて通訳する役割を担っている。

 実際に聴覚障害のある俳優を起用。この家族の関りがいい。娘の歌を知ろうとする父親、妹をしばりつけたくない兄、「聴覚障害を持って生まれてきてほしかった」と話す序盤からウザい面がある母親も娘を大事に思っている。家族のためにゆれるヒロインの心情もいい。支える側の葛藤を描いた新しい視点の作品(フランス映画のリメイクらしいが)。

無音のライブ

 選曲がいい。ミュージカル映画的にも楽しめる。中でも、見せ場はマーヴィン・ゲイとタミー・テレルの「You`re All I Need To Get By」。ヒロインと彼氏となる男の子との練習シーンは初々しい。メインは発表会の場面で、ライブが途中無音になる。聴覚障害のある主人公の家族の視点に切り替わるのだ。周囲が盛り上がっている中、自分にはその歌声も、拍手も聞こえない。ライブをどんな思いで聴いているのだろうという思っていたら、まさにその瞬間にこの切り替えがある。もっとも盛り上がるシーンをあえて無音にする演出はさすが。

 また、大学での歌唱試験では、家族が聴いているのに気づいて、ヒロインが手話を交えて歌う。この二つのシーンは圧巻。

 あと合唱部の先生が個性的で面白い。彼がヒロインの才能に気づき、道を拓くきっかけをつくる。ヒロインの家族と対面して動画で覚えた手話を披露するシーンも隠れた(?)名場面。時折挟む笑いがウザくないのがいい。

手話言語条例

  多くの自治体で手話言語条例が制定されているのをご存じだろうか。 手話を言語として明確に位置付けるとともに、ろう者が手話を使い日常生活や社会生活を安心して営むことができる社会の実現を目指している。というのも、聴覚障害は見た目では分からない。声をかけても聞こえないのだが、知らないと無視されているように思われる。手話を理解できる人は少ない。ジェスチャーである程度伝わるかもしれないが、会話レベルにはなかなかならない。

 この手の条例はお題目だけに終わりがちだが、あちこちで手話講座が開かれ、少しずつ覚える人が増えているまちもある。全然手話ができない私も勉強しておかなければと、映画を観てあらためて思っている。

編集後記

 ヒロインの苦労、ヒロインが進学してから起こるであろう家族の苦労。もし、自分だったら。もし自分が障碍者になったら家族は。いろいろと考えさせられる作品。でも重すぎず、エンターテイメント性が高い。世代を超えて楽しめる良質な映画。ネットフリックスで観られるようになったので、加入者はぜひ。

 

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