映画「キングダム3」が公開され、注目度が高まる中国史。キングダムって何が面白いの?中国史ってほかにどんなのがある?そんな疑問に答える3冊を紹介します。
- キングダム(原泰久)
- 隋唐演義(編訳・田中芳樹)
- 古代中国の24時間(柿沼陽平)
キングダム(原泰久)
時は紀元前、春秋戦国時代。いまだ一度も統一されたことのない中国大陸は500年もの動乱期。
週間ヤングジャンプ特設サイトより
戦国七雄の一つ「秦国」の身寄りのない少年・信と漂は、今は 奴隷のような身なれど、いつか武功をあげて天下一の将軍になることを夢見て修行に励む。そんな二人が偶然、秦国の大臣に出会ったことから運命の歯車が動き出す。
戦国もの好きの人にお薦め。マンガからはもちろん、アニメから、映画からでも入りやすい。私もアニメから入りました。ただ、原画の迫力はすごい。原作もぜひ。大河の影響で歴史に興味を持った人も、より壮大なスケールの戦国絵巻が楽しめます。
お薦め度
推しは誰?多彩なキャラクター
マンガらしく多彩なキャラクターと圧倒的な熱量で日本人になじみのない名前にもすんなり入っていける。主人公の信(秦の国の信というややこしさはあるが)は、ある意味主人公らしい熱い一直線の人物。親友であり君主である嬴政は、後の始皇帝。初めて中国を統一した人物である。キングダムの世界では、理想に燃える若き君主で度量も大きい。もちろん、歴史上も偉大な人物だが、史実では猜疑心が強い印象を与える。さまざまな物語でも悪役になりがちだ。始皇帝以外に日本でも有名なのは呂不韋。他国の一商人から秦の先代を王位に付け、宰相として国内で圧倒的な権力を持つ。一説には嬴政の実の父親ともされる。日本では呂不韋を主人公にした小説で有名である。
多彩な登場人物の中で僕が好きなのは昌平君、桓騎、蒙恬、騰。昌平君は文武両道の総司令官。登場時は嬴政に敵対している呂不韋陣営の幹部だったが、嬴政の才覚を認め強力な味方になる。多くの弟子を抱え、人材育成でも貢献する。桓騎は盗賊あがりの将軍。神出鬼没の戦術で敵を翻弄するクールさと残虐性を持つ。人格者が多いキングダムの武将の中で異質な存在だが、敵の虚をつく戦術は痛快で一番好きなキャラクター。映画第3弾に出演している俳優・杏も原作の大ファンを公言しているが、一番好きなキャラクターは桓騎だという。
蒙恬は3代続く将軍の家柄で、作中では小隊を指揮する才気あふれる若き武将。史実では北方の異民族を撃退して功績を残している。騰は大将軍の副将という位置にいたため、登場初期はそれほど目立たなかったが、知勇を兼ね備えた武将として活躍する。飄々としてまだまだ底が知れない不思議なキャラクター。
秦の陣営だけでも紹介しきれないキャラクターがいるのに、舞台の戦国時代に国は七つ。他の六国にも強力なライバルがひしめく。最大のライバルは趙の宰相・李牧。史実では彼も北方の異民族からの侵略に対抗して中国を守った英雄。作中では屈指の天才軍師として描かれ、優れた策略と味方をも欺く徹底した情報封鎖で、中華の名だたる大将軍らを討ち取る。
推しを追いかけるだけでも楽しい。ただし、戦国時代。ばったばった死んでいくので、ロスには注意。
隋唐演義(編訳・田中芳樹)
三国志で中国史に興味を持った僕が、中国史の魅力をさらに知った作品。時代としてはキングダムや三国志よりも後。日本にも多大な影響を与えた大国・唐の誕生を知ることができる。中国史をもっと知りたい人にお薦め。
お薦め度
英雄の友だちは英雄?隋末の水滸伝
隋末の混乱期、水滸伝の梁山泊のようなアウトローが集う要塞があった。超人的な強さの秦叔宝、強さはほどほどだけど何かと事態をかき回すトリックスター・程知節、若き軍師・李せきなど後に唐の天下統一を支える武将が漫画のような展開で続々と集まってくる。
英雄はほかにもたくさん出てくるが、僕が好きなのは李密。この要塞の首領で、アウトローをまとめ、一時は天下統一に最も近づく。子供の頃から頭は切れるけれど、目つきが悪く、出世が閉ざされる。どんだけ目つきが悪かったのかという話ですが(笑)。目つきだけでなく、性格も悪い。それでもアウトローたちと快進撃を見せる場面は痛快。道半ばで敗れはするが、李密が主人公の小説もあるくらいで、隠れた人気キャラなのかもしれない。
結局誰が天下を取るのか。唐の2代目、李世民である。中国史上最高の皇帝の一人に挙げられる人物。10代で父親を担いで兵を挙げ、20代で天下統一を成し遂げる。中国の長い歴史で、実力によって20代で天下を統一できたのは項羽と李世民だけ。項羽の楚は1代で滅びたが、唐は300年近く続いた。しかも、李世民による治世、貞観の治は中国史上最も国内が治まった時代とも言われる。日本もこの政治を真似た。中国史でぜひ押さえておきたい。
古代中国の24時間(柿沼陽平)
戦国時代の戦いにはそんなに興味ないけど、時代劇は好きなんだよね、という方にもお薦めなのがこの歴史書。昔の中国人はどんな生活をしていたのか。令和の日本との共通点は何か。面白い発見がきっとあります。
お薦め度
今も昔も、日本も中国もサラリーマンは辛い
古代中国の食事は1日2回。午前8時ごろに朝食を済ませ、9時ごろに勤務先に出かける。昼間に市場で買い物をしたり、昼寝の時間があったり。夕方の早い時間から飲み始めたり。午後7時ごろに寝る準備を始めたり。現代日本と似ているところも少なくない。
どんなものを食べていたのか。主食はコメではなく、アワが多く、少し上等なものとしてキビがあり、オオムギも食べられていたという。イネ、アワ、キビ、オオムギは煮てから蒸し、粒のまま食べていた。煮汁とともにビタミンやたんぱく質を流し捨てるので、あまり栄養豊富ではなかったとか。アワは餅や麺などにしても食べていたよう。現代の食事の原型は感じられる。
ただし、上流階級はいいものを食べていたよう。肉は牛、羊、豚、馬、鶏、キジ、白鳥など。特に子牛、子羊、幼鳥などの柔らかい肉が好まれ、春には繁殖期のガチョウ、秋には若鶏を、冬には温室栽培のアオイやニラを食べるなど、現代のグルメと変わらない生活だったかもしれない。
ちなみに、古代の中国では顔を洗い、手は洗っていたが、歯磨きはしていなかった。それでも虫歯がそれほど多くなかったのは現代との食生活の違いだろう。