甲子園に違和感のある方へ|アルプススタンドのはしの方

処方

アルプススタンドのはしの方(2020年、日本映画)

効能・注意

・高校野球はなぜ特別?と思っている人は他にもいます

・端っこだって輝けます

・演劇に興味が湧きます

こんな話

 高校野球・夏の甲子園1回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこで見つめているのは、野球部の応援に駆り出された冴えない4人。演劇部の2人はブロック大会直前に主役がインフルエンザになり出場できなかった。絶対的なエースがいてレギュラーになれないからと退部した元野球部、成績優秀だけれど友達づくりが苦手な帰宅部。「しょうがない」と諦めてばかりだった4人それぞれの想いが交差し、先の読めない試合展開とともに、いつしか端っこが熱い場所に。会話劇。

高校野球は特別か

 野球部は特別です。高校時代、陸上部でした。県大会の会場となる陸上競技場と野球場はすぐそばですが、扱いの差は歴然としています。たまたま、陸上部の大会日程と野球部の試合が重なったことがあるのですが、野球部には地元からバスに乗って大勢の応援団が来るけれど、陸上競技場には誰も来ません。それどころか、手のすいていた陸上部員まで野球部の応援に行ってしまう始末…

 野球は好きだし、高校野球も面白いけれど、全国大会は他の競技と同様にインターハイでよくないですか?毎回開催県が変わったら、聖地とあがめている「甲子園」ではプレーできないから却下でしょうね。炎天下でのプレーを避けるため、ドームで大会をしましょうなんていっても却下されるでしょう。高校スポーツを新聞社が主催しているのもいかがなものかと思います。そうした違和感はいまも消えることはないですね。野球だけでなく、サッカーやラグビー、バレーなんかもマスコミが主催の大会があって盛り上がってます。もちろん、スポーツの普及に果たした役割は大きいですが…。

 球児は元気いっぱい、清々しいというイメージもどうかなと思います。それはそんな球児もいますが、当然そうでない球児もいます。野球の上手い下手に関係ないですから。映画の冒頭で「野球部って偉そうだよね」というセリフが出てきますが、僕の高校時代の印象もまさにそうですね。まあ、当時はスポーツ万能の連中が野球部に集まってたから、そうなりやすい。陸上部はどちらかという一芸主義で、専門の競技以外はへなちょこという人も多かったです。

端っこだって輝ける

 甲子園は青春の「ど真ん中」。僕はそんな真ん中に立ったことは学生時代はもちろん、大人になってからも一度もありません。大半の人が映画の主人公の4人と同様にどこかの「端っこ」にいるのではないでしょうか。

 でも、輝ける場所は真ん中だけではありません。最初は「しょうがない」でいろいろなことを諦めていた4人が、応援を通じて変わっていく姿は全国の「端っこ」に勇気を与えてくれます。ちょっと「真ん中」信仰が強い気はしますが。

 球児にしてもそう。「甲子園は目標の一つであって、全部ではない」と言ってほしい。甲子園に出場できるのは全国49校、優勝できるのは1校のみ。それだけが目標だと、達成できるのはほんの一握りです。高校野球で燃え尽きず、どうか競技を続けて欲しい。大学進学後に芽が出る選手もいるだろうし、草野球を楽しんだり、少年野球を指導したりしてもいい。野球が好きだけれど、高校野球は練習や上下関係が厳しいからと入部しなかった友人がいます。でも、彼は50を目前にしながらも草野球チームの中心選手です。決してスポットライトを浴びることはありませんが、僕の目からは輝いて見えます。

演劇部に興味津々

 映画の原作は高校演劇です。たった4人の部員のために作った戯曲が、全国大会で最優秀賞に輝き、これまで多くの高校がリメークしているそうです。演劇版では4人以外は名前しか出てきませんが、映画版では少し登場人物が増えています。吹奏楽部の演奏シーンもありますし。それでも、野球の試合は一切映さない徹底ぶり。会話から試合の展開を読むしかありません。

 演劇部の大会というのはすごく不思議で、県大会を突破して、近畿とか関東のブロック大会に進む、ここを突破すると全国にいける。ここまでは運動部とそんなに変わらないのですが、全国大会が翌年度にあります。つまり、3年生は全国出場権を獲得しても、卒業しちゃうから出場できない。

 映画でも2年時にブロック大会を棄権する形になった2人は「しょうがない」と諦めていましたが、3年時にまた大会を目指します。たとえブロック大会を突破したとしても全国に出られないけれど、それだけが目標ではないから。こんなところにも真ん中にはない輝きを感じます。

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