生き方を学びたい方へ|アルスラーン戦記③

処方

アルスラーン戦記(田中芳樹)

効能・注意

・キャラが格好いい

・本当の正当性とは何か

・第2部は残念

キャラ設定の魅力

 歴史、政治、哲学などさまざまな要素が内包されていますが、キャラクター設定が魅力的です。前述の通り、アルスラーンは優れた剣士でも抜群の知略を誇るわけでもない。でも、周囲が助けたくなる、人を導く魅力を持っています。

 常にアルスラーンに従う黒衣の騎士ダリューンは、作中最強の一人。敵国の猛将を何人も討ち取り、指揮能力にも優れています。ただ、アルスラーンにはかなり過保護。軍師ナルサスは、大陸随一の知略だけでなく、剣の腕も相当でダリューンに匹敵する銀仮面とも強力な魔導士とも渡り合います。ただ絵が下手というのが弱点。下手の横好きですが、アルスラーンに認められ宮廷画家になるのは名(迷)場面の一つです。

 吟遊詩人のギーヴは剣はもちろん、弓の腕も登場人物トップクラスで神業を連発。兵も指揮できれば、単独行動はもっと得意。最初は絶世の美女・ファランギース目当てでアルスラーン陣営に加わりますが、旅の中でアルスラーンにひかれていきます。王家には何の思いもないけれど、アルスラーン個人には忠誠を誓う。奔放な彼が地味なアルスラーンの魅力を証明しています。

 戦記物なのでチャンバラも見どころです。二刀流の将軍、吹き矢使い、鎖使い、地中に潜れる魔導士など、個性豊かな戦士によるアクションは手に汗握ります。

正当性とは何か

 ネタバレになってしまいますが、アルスラーンは実は王家の血を引いていません。一方、ルシタニアに味方してパルスに侵攻した銀仮面ことヒルメスは先代の王で現在の王の兄であるオスロエスの息子。オスロエスは現王に弑逆されたとの噂があります。子どもだったヒルメスはその際の火事を何とか生き延び、他国へ逃れていました。王位を取り戻すために銀仮面としてルシタニアに手を貸し、現王朝を一掃した後、仮面を捨てて国を取り戻す計画でした。

 血筋だけだとヒルメスの方が正当性はあるのかもしれません。剣の達人で、頭もキレるヒルメスは復讐がすめば、あるいは真っ当な王になれるのかもしれない。でも、こんな国民に迷惑をかけるやり方が果たして受け入れられるのか。

 アルスラーンは苦難を乗り越え、自力で王都を奪還し、外交手腕を発揮して他国の侵略も防ぎます。経済活動にも積極的で、奴隷解放などかつてない改革も断行。王家の血は引いてなくても、国民に支持されて王位につきます。どちらに正当性があるのか。

 「英雄の子はかならず英雄。人の世がそのように定まって動かないとすれば、つまらない。事実はそうではない。だからこそ、生きているのが面白い」。誰の子供かなんて関係ない。政治の世界も社会もそうあってほしいです。

2部は残念

 作品は全16巻。2部構成で王都炎上から王都奪還の1~7巻が1部。2部はアルスラーンが王になってからの物語です。タイトルは王都炎上のように全て漢字四文字。落日悲歌、征馬孤影、仮面兵団など格好いいタイトルばかりです。ただ、1部はもう文句なく面白いのですが、2部の途中からガクンとレベルが下がってしまいます。もう本当に同じ作者の作品だろうかと思うほどです。きちんと完結できたのは良かったですが、ファンとしても最終盤の出来には納得いっていません。でも1部は何度も繰り返し読んだ名作中の名作。未読の方は1部だけでもぜひ。マンガ化、アニメ化もされてますので、本を読むのが苦手な方はそちらだけでも体験してみてください。

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