生き方を学びたい方へ|アルスラーン戦記②

処方

アルスラーン戦記(田中芳樹)

効能・注意

・物語の面白さ詰め合わせ

・自分で考える大切さを学べます

・反根性論

物語の面白さ詰め合わせ

 アルスラーン戦記は古今東西の面白い物語の要素を混ぜ合わせてつくられたそう。

アーサー王の伝説を記した「ブリテン列王記」「三銃士」「鉄仮面」「南総里見八犬伝」「水滸伝」などのおいしいとこどりをしながら、舞台は中世ペルシアに似た異世界という変わり種。直球と変化球のいいとこどりもしています。聞きなれないペルシア風の単語、アルスラーン、ナルサス、イスファーン、エクバターナ、ファルサングなどなども魅力的です。

 出会ったのは高校3年生。このころは部活に追われ、体調も悪くて読書から遠ざかっていました。それが本を手にして一気に世界観に引き込まれたのを覚えています。

奴隷になるな

 物語の世界には奴隷制度があります。今でこそ、奴隷なんて許されないという考えが主流ですが、当時は奴隷がいることで利益を得ている富裕層もおり、簡単に無くすことはできませんでした。

 アルスラーンは悪徳貴族を退治した際に、貴族の奴隷を解放しますが、奴隷から「ご主人様の仇」として命を狙われます。助けたはずが、敵になってしまったのです。

 アルスラーンの師となる軍師ナルサスもかつて同じ失敗をしています。父の急死で若くして領地を受け継いだ際に前から問題に思っていた奴隷をなくそうと、1年分の生活費を与え、奴隷を解放します。ところが、大半の奴隷はすぐにお金を使い果たして帰ってきてしまいました。それどころか「前のご主人様は優しかった。私たちを放り出したりはしなかった」と恩人であるはずのナルサスを批判するのです。

 優しい主人の下で奴隷でいることは実は楽なのです。自分で考え、行動しなくても住む場所も食事も得られます。「でもそれは人間のあり方ではない」。

 現代でも会社や慣習にとらわれ、自分で思考することをやめた奴隷は大勢います。その方が楽なのです。一番怖いのは空気の奴隷です。今はネットで怪しい情報が一気に拡散します。一度それを信じてしまうと、それを補強する情報がどんどん入ってくる。冷静に判断すればおかしいと気付くはずですが、自分で考えずに簡単に答えを求めてしまう人があまりにも多い。

 後にアルスラーンは国の奴隷を解放し、解放王の名前で呼ばれることになります。みなさんは、解放されているでしょうか。

反根性論

 「足りない技量を気迫で補う、などと考えないでください」。アルスラーンの師たちはそう指導します。必勝の信念があれば勝てるのか。残念ながらそんなことはありません。だって、相手だって勝ちたいでしょうから。ナルサスは子供時代に塾で戦争で必要な二つのものを問われ「お金と食料」と答えて間違いにされてしまいます。正解は「勇気と知恵」。ナルサスはため息をついて「勇気と知恵なんてどこからでも湧いてくるけれど、金と食料はそうはいかない」。それでも何の準備もなく「みんな頑張れ」の根性論だけで仕事を進める人の何と多いことか。この本を読んで学んでほしいです。

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