彼女のこんだて帖(角田光代)
こんな話
長く付き合った男と別れた。だから私は作る。自分だけのために、肉汁たっぷりのラムステーキを。仕事で多忙な母親特製かぼちゃの宝蒸し、離婚回避のミートボールシチュー。さまざまな立場の人が作る多様な料理が、幸せを生み、人をつなぐ。連作短編小説集。巻末にはレシピ付き。
主人公がリレー
どの話もおいしそうだが、面白いのはストーリーの仕掛け。1話目の主人公の同僚が2話目の主人公になるなど、葉タイトルごとに主人公がリレーしていく。あの時の脇役は、実はこんな人だったのかというエピソードが面白い。そうして巡る最終話に、いきなり振られるところから始まった1話目の主人公が脇役として登場し、失恋のその後が何となく分かる。にんまりする場面が随所に散りばめられています。
なけなしの松茸ごはん
インパクトがあるのが「なけなしの松茸ごはん」。恋人と駆け落ち同然で上京してきたものの、入居したアパートは古くて狭い、恋人はすぐに無職になり求職活動もろくにしていない。こんなはずじゃなかったと追い詰められたヒロインは母から渡された秘蔵っ子の3万円を握りしめ、スーパーで2万9800円の松茸を震えながら買う。そして全てを松茸ごはんに投入する。これでもう貯金はない。追い詰めたかったのは恋人でなく、自分自身。ここから、少しいいことが起こりそうな気配を漂わせ幕を閉じる。
他の話もそこまで劇的な展開ではありません。ヒロインがストライキを起こし、離婚危機に陥った時、居酒屋でバイトしたことのある夫が作るミートボールシチューが理想の結婚像を思い出させる話も。僕も切り札に何か料理を勉強しておこうかな。
僕のこんだて帖
一人暮らししていた時は毎日自炊していました。特別な料理は作れないけれど、自分が食べる分には困らない。ご飯とみそ汁、大根おろしを添えた焼き魚とほうれん草のお浸しなど本当に簡単な料理だけ。ご飯は1週間分くらいまとめて炊いて、冷凍。カレーを作ったときはカツカレーやカレーうどんなど、アレンジしながら3、4日は連続。冬場はほぼ毎日鍋料理。トマトジュースで作るスープパスタはレパートリーの中ではちょっとおしゃれ風。習慣化されていたので、それほど面倒には思いませんでした。
結婚してからはお任せでほとんど作ったことがなく、そういえば最近は妻に聞かれるまで「おいしい」とか「ありがとう」さえ伝えてなかったかも。作品にもそんなエピソードが出ていて身につまされました。それからは「おいしい」は伝えるようにしていますが、気付いているかな。