どうぶつ会議(エーリヒ・ケストナー)
こんな話
第二次世界大戦後、世界平和のために国際会議が開かれますが、少しも成果があがりません。それを見て怒った動物たちは、北アフリカの動物会館に集まって、動物会議を開こうと決心します。スローガンはただ一つ。「子供たちのために」。どういう会議になるのか。未来を祈るケストナーの絵本。
70年近く前の作品
1954年発刊の絵本。でも子供たちのために平和を願う、根本のテーマは全く古さを感じません。逆に時代が移っても世界は進歩していないということかもしれません。
動物たちは「人間は何かといっては戦争をはじめ、何もかも滅茶苦茶になってしまうと、すぐさま頭を掻きむしって、怒ったり、悲しんだりしている」と指摘します。まさにその通りで、歴史上、人間はこれを繰り返してきました。いつになったら抜け出せるのでしょうか。
絵本にしては少々長いですが、動物たちそれぞれの個性がはっきりしていて、クスッと笑えるエピソードもあります。子供にも大人にも読んでもらいたい本です。
戦争をなくすために
動物会議からの平和への提案は非常に分かりやすい。①すべての国境をなくす。②軍隊と大砲や戦車をなくし、戦争はもうしない。③警察は弓と矢を備えていい。警察の務めは学問が平和のために役立っているかどうかを見ることにある。④政府と役人と書類の数は、できるだけ少なくする。⑤子供をいい人間に育てることは、一番大事な難しい仕事であるから、これから先、教育者が一番高い給料をとるようにする。
①はEU誕生当時は、いずれ国境はゆるやかに消えていく、そういう流れが生まれるのかとの期待もありましたが、逆に分裂して国境が増えることもあるし、なかなか進みません。むしろ分断が加速しているような。②も核兵器すら足並みをそろえて削減できていません。③はちょっとどうなのかと思いますが、④⑤は一理ありそう。
何も決まらない会議
絵本の中の会議だけでなく、現実の社会でも会議で有意義なことが決まることはなかなかありません。会議は開いていくうちに、開くことが目的になりがちです。僕が出たことのある会議でも、用意したシナリオをただ読み上げるだけ(それってメール連絡でよいのでは?)とか、さまざまな数値データーを口頭で伝えるのみ、ただ雑談するだけっていうのが多々ありました。主催者側はそれで満足しているようですが、出席を強制される方は時間をどぶに捨てているようなものです。議論を通じ、自分ひとりではたどり着けない新しい何かを生み出せる。そんな動物に怒られない会議を開きたいです。