プリズン・サークル(坂上香)
こんな内容
受刑者が互いの体験に耳を傾け、本音で語り合う。そんな更生プログラムを持つ男子刑務所がある。埋もれていた自身の傷に、言葉を与えようとする瞬間。償いとは何かを突きつける仲間の一言。日本で初めて「塀の中」の長期撮影を実現し、繊細なプロセスを見届けた著者がおくる渾身のノンフィクション。撮影の記録は映画化されています。
刑務所ってどんなとこ
日本の刑務所を特徴づけるのは沈黙です。受刑者は人と接する機会が何年にもわたってほとんどありません。また、多くの場面で会話が、すべての場面で大きな音を立てることが厳しく禁止されています。語れない、語りたくないこともあります。問題なのは強制された沈黙です。それによって、個性、主体性を奪われ、問題が包み隠されているのが日本の刑務所だと著者は指摘しています。
本の中で取り上げられている「島根あさひ」は沈黙とはまったく逆のアプローチを取り入れています。受刑者は円座(サークル)になって語り合います。どんな絶望的で、すさまじい体験をしようと「それでもなお語る」ことの重要性。他者に打ち明ける、伝えるという行為が「非人間化された状態」から「回復」という道に誘い、当事者の人間的な成長を促す可能性があります。
感情の筋肉
いきなりは語れません。受刑者は常に怒っていたり、落ち込んでいたり、冷笑的になっていたり、無関心であったり、自分の体験に声も名前も与えられず、何も感じられない状態になっています。心から笑う、良い人間関係を築くこと、痛みに反応すること、自尊心を持つこと、さまざまな感情を理解することができないそうです。人生のなかで起きたさまざまな出来事について、どう解釈すればいいのか分からないまま、自らの感情を言葉にできないでいます。自分や他者の感情に気づき、共感できるようになり、恐怖や怒りに振り回されない。感情の筋肉を鍛えることから始めます。
ちなみに受刑者の多くがいじめを体験していることは、国内の大規模調査で明らかになっています。家族からの虐待が5割、家族以外の第三者からは6割。
もしかたしたら刑務所で
実は無職だったころ、刑務官の試験に合格しました。配属先が決まるまでの間に新聞社に入社し、そのまま働くようになったのでお断りしたのですが、もし就職が決まっていなければ刑務所で働いていたはずです。でも、受刑者に厳しく接する刑務官は、僕には向いていなさそうです。じゃあ、なぜ受けたのかというと心理学に興味があったからで、研修の中でいろいろ学べると聞いていました。この本の取り組みにも関心があります。
刑務所まで行かなくても、身近に「刑務所化」された場所はあります。学校です。校則や所作が事細かに決められ、沈黙が強要される。学校教育と刑務所が似てていいはずがないと思うのですが。警察、工場、企業、公共機関、社会が刑務所化していないか。新型コロナでそれが加速化していないか。心配です。