アオアシ(小林有吾)
こんな話
愛媛に暮らす中学3年生の青井葦人は、サッカーの才能を秘めているが、短気で粗削り。大きな挫折を経験する。そんなアシトの前に東京にある強豪Jクラブユースの福田監督が現れ、東京で開催する自チームのセレクションを受けるよう勧める。全く別世界のサッカーに触れ、アシトの運命は急速に回り始める。Jユースを舞台にした本格サッカーマンガ。4月からアニメ化されるようです。
部活動とは異なる世界
プロサッカー選手への近道の一つが有力な高校かプロクラブのユースチーム(高校生)のどちらかに所属すること。ユースチームに所属するルートは三つ。ジュニアユース(中学生)からの昇格、スカウト、セレクションです。ジュニアユースに所属している時点で中学生年代では相当なレベルですが、それでもユースに昇格できるのは半分以下。各クラブのスカウトが中学生年代はくまなく調べているため、そのスカウトにひっかからないような選手が集まるセレクションによる合確はほとんどないようです。アシトが挑戦するのはそんな狭き門です。
もっとも、ユースに昇格できなかった選手、ユースからトップチームに上がれなかった選手がプロになって活躍し、日本代表、海外へというのもよくある話。才能がいつ、どこで開花するか分かりません。セレクション前の福田監督の言葉がいい。「這い上がってこれる奴は、本当に光って見える。逆境をはね返す力を持った選手は喉から手が出るほどほしい。大勢いても光ってくれるなら必ず見つける。俺たちはプロだから」
視野の広さ
アシトはプロを目指す他の選手らと比べると足下の技術は高くありません。最大の武器は視野の広さ。フィールド全体が見渡せ、誰がどこにいるのか把握できます。テレビで見ているとフィールド全体がよく見えて、「あっ、あそこのスペースに今パス出せばよかったのに」なんて素人でも思いますが、フィールドの中ではそうはいきません。僕も遊びでサッカーやフットサルをやったことがありますが、足下にボールを収めるのにいっぱいいっぱいで、絶え間なく動いている選手を把握なんてとてもできません。
チームメイトでDFの富樫は、監督に言われて視野を広げる特訓をします。監督は的確なアドバイスはしますが、どんな場面でも答えそのものは提示しません。「自分で掴んだ答えは一生忘れない」という思いがあるからです。やがて自分で答えを掴んだ富樫も主人公も活躍の場を広げていきます。マニュアルを落とし込むだけじゃない指導法は、職場でも生かせそうです。
脇役に光
主人公のアシトの周囲を固める脇役も個性豊か。そんな一人ひとりにスポットを当てているのがこの作品の魅力です。僕のお気に入りは大友。試合前はガチガチに緊張しているけれど、試合が始まると肝が据わる。周囲がよく見えていて、気配りができる。キャプテンシーを持った選手です。主人公とランニングする場面で、コースで出会う人たちとすっかり顔なじみになっている姿がさりげなく描かれていました。こういう人が一人いてくれると組織はまとまりやすいんですけどね。
サッカーマンガの主人公は大抵FWかMFで攻撃的な選手です。アシトも当初は前線の選手でしたが、守備的なポジションのSBにコンバートされます。本来は主役ではないポジションですが、ここからどんな飛躍をするのか。今どきのサッカー戦術と比べながら楽しめます。
24日はサッカー日本代表の大一番。ワールドカップ(W杯)最終予選、オーストラリア戦です。ここで勝てばW杯出場決定、敗れれば出場が絶たれるというわけではありませんが、かなり厳しくなります。脇役からも光る存在が現れることを期待しています。注目は久保選手。久保選手の父親は、僕と同じ小中学校の出身。久保選手には会ったことありませんが、もう親戚の子を見ている気分です。代表ではレギュラーを確保できていませんが、試合の流れを変えられる選手。途中出場でもワンプレーで試合を変える。そんなシーンに期待しています。
オシムの影響
先日亡くなった、元日本代表監督のオシムさんは、日本サッカー界に大きな影響を与えました。アオアシ内でもオシム式パス回しが取り入れられています。6人とかのグループで、中にボールを奪う役を置いてするのですが、とても難解。
ボール保持者がパスを出すとき、パスを出す相手に別の選手の名前を口に出して指定します。パスを出された選手は、指定された相手にパスを出さなければならない。その時は同じように、次にパスを出す相手を指定します。このルールだとパスが来る前に指定された選手がどこにいるかの確認、パスを出した相手が次にパスを出しやすい選手の確認が必要になります。ボールだけ見ていても、足元の技術がうまくても絶対に成立しない仕組みです。こんなに頭を使うスポーツなんですね。
オシム語録はサッカー以外にも通じるものが多かったです。「リスクを負わないチャレンジはない」。当たり前のようで、リスクを負える人は本当に少ない。僕も心がけています。