分断を感じてますか?/アドレセンス

ドラマ

アドレセンス(2025年、ネットフリックス)

クラスメイトを殺した罪に問われたのは、わずか13歳の少年。一体何が起きたのか? 少年の家族、心理療法士、そして事件を担当する刑事が追い求めるその答えとは。(ネットフリックス公式ホームページより)

熊野堂
熊野堂

今、世界中で話題になっている問題作。地味で暗い作品がなぜ、どの国でも受け入れられるのか。社会の分断を日頃意識している人も、してない人も。一度鑑賞して考えてほしい。英国では学校の授業でも観られるのだとか。

お薦め度 

ポイント

・いきなり事件

・分断を感じていますか?

・男女どっちがいい?

・ワンカット

いきなり事件

 冒頭のシーンは何事かと見る人を引き付ける。特殊部隊が突入した先は、テロ組織でもマフィアの巣窟でもない。13歳の少年の寝室。田舎町、どこにでもあるような家庭、学校。舞台は英国だが、日本に置き換えても、フランスや韓国、アメリカに置き換えても成立する物語がここから始まる。この共通性こそ世界で注目される理由だろう。

 連続ドラマだが、全4話と短い。1話が少年の取り調べ、2話が学校での捜査、3話が少年と女性臨床心理士の対話(対峙)、4話が少年家族の日常と構成はまったく違う。これも珍しい。でも、こうした仕掛け以上に引き付ける要素が物語自体にある。

分断を感じていますか?

 物語の根幹にあるのは分断だ。一つは親子、世代による分断。クラスメイト殺害の罪に問われる少年は、ごく普通の少年に見えるし、実際に殺人を犯したこと以外は普通だ(いや殺人もちょっとした偶然の重なりで普通の人も犯すものかもしれない)。その普通の少年が何を考え、どう行動しているか。一緒に住む親はまるで分からない。食事やテレビなどで同じ時間を共有はしても、部屋に入れば一人の世界がある。その世界はインターネットで、どこにでもつながる。もちろん、ネットには利点も多く、やめさせるのはおかしい。でも、親が知らない危険もいっぱいある。大人になってからネットに触れた親世代と生まれた時からネットが普及している、スマホも普通に持っている子ども世代ではネットの生活への浸透度がまるで違う。SNS上では言葉が日常と違った意味で使用されている。それに大人は気づかない。少年と父親、事件を追う刑事とその息子。被害者の女子生徒とその保護者もそうだろう。この親子関係には分断がある。視聴者の親世代も心当たりがあるから、気になってしまう。恐ろしさに震えるのだろう。

男女どっちがいい?

 世代だけではない、男女の分断も深まっている。ネット上に蔓延するミソジニー(女性蔑視)。毎日のようにネットで情報収集する少年が真理のように語る「80対20の法則」は、80%の女性は上位20%の男性に引かれるという意味でつかわれる。少年は女性から醜いと見なされ相手にされない。女性に相手にされない自分は男として誰にも評価されないと思い込む。それが攻撃行動にもつながる。

 女性の地位向上、男女平等は当然だが、その中で、男性の一部が見捨てられているという考えだ。少年はSNS上で少女からインセル(不本意来な禁欲主義者)とやゆされます。今どきの日本語でいうと非モテでしょうか。何度もいうように少年は普通で、たしかに勉強もスポーツもたいしてできないのかもしれませんが、特別ルックスや性格に難があるようにも見えません。でも、そうカテゴリーされて嘲笑の対象になっている。なぜ自殺やうつは男性が多いのか。異性間のトラブルが増えているのはなぜか。加害者に男性が多いのはなぜか。そうした問題も突きつけているのかもしれません。

 他人にどう見られているかを異常に気にする子どもたち。それは男女とも変わらない。いや、大人もそうだ。化粧やファッションは身だしなみかもしれないが、それは自分のためなのか、誰にどう見られたいのか。思想や仕事もぶりも人にどう見られるかを異常に気にする人が多い。アドレセンス(思春期)特有の病は、高年齢化している。

ワンカット

 内容以外の魅力は何と言ってもワンカットでの撮影だろう。約1時間、途切れることなく一つのカメラがすべての物語を描く。気にしてみないと気づかないかもしれない。主要人物の交代も場面の転換もすべて、バトンパスのように連続している。1話の突入から収容施設への移送、施設での取り調べ一連の流れがリアルタイムで味わえ、目を離す隙を与えない。圧巻は2話だろう。学校で生徒から情報を得ようとするが、複数のクラス、大勢の生徒が入り乱れる中、ワンカットで撮影してまう。どんな設計のもとに動いているのか想像もできない。そして手法倒れに終わらない演技力。誰もが失敗を許されない中で、リアルな世界を表現している。特に少年はこれがデビュー作というが、繊細さと暴力性、どこにでもいる普通の少年を見事に演じている。

編集後記

 親子でネットに対する意識が違うというのは分かっていたが、何が違うのかは分からない(それこそが問題)。この作品が教育や子育てに役立つかは分からないが、この事件はどこででも起こりうるという恐怖感は共有しておくべきだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA