届かないことありますか?/片思い世界

映画

片思い世界(2025年、日本)

 相楽美咲、片石優花、阿澄さくらの3人は、東京の片隅に建つ古い一軒家で一緒に暮らしている。それぞれ仕事、学校、アルバイトへ毎日出かけていき、帰ってきたら3人で一緒に晩ごはんを食べる。リビングでおしゃべりをして、同じ寝室で眠り、朝になったら一緒に歯磨きをする。家族でも同級生でもない彼女たちだったが、お互いのことを思いあいながら、楽しく気ままな3人だけの日々を過ごしている。もう12年、ある理由によって強い絆で結ばれてきた3人には、それぞれが抱える“片思い”があった……。(映画.comより)

熊野堂
熊野堂

「花束みたいな恋をした」の脚本、監督コンビによる最新作。広瀬すず、杉咲花、清原果耶の3人がトリプル主演とくれば見ないわけにはいかない。一筋縄ではいかない、ちょっと変わったストーリー。単純な恋愛ものと思って観ると、がっかりするか、驚くか。

お薦め度 

ポイント

・届かないことはありますか?

・圧倒的に片思い

・3人

・合唱曲

届かないことはありますか?

 「片思い世界」。ラブストーリーのようなタイトルですが、その要素もありつつ、単純なラブストーリーではありません。ネタバレしてしまうといけないタイプの話なので、設定は明かしませんが、あり得ないようでいて、どこにでもある話。届けたいけれど、届かない。片思いは、私たちの生活、世界の中にいっぱいあるのではないでしょうか。非日常の世界を通じて、日常の思いに気づく。そんな作品です。

 誰の中にもある片思い。でも、それは全然むだではない。時には表面的に思いがつながることもあるし、表面的にはつながっていなくても、底の部分ではつながっていることもある。

 冒頭からしばらく、違和感がありながらもストーリーを追っていくと、世界設定が見えてきて、いくつもの片思いがあふれ出します。

圧倒的に片思い

 谷村有美の楽曲に「圧倒的に片思い」という曲がありました。曲の好みはともかく、タイトルは圧倒的に存在感がある。世の中は圧倒的な片思いに満ちているのではないでしょうか。恋愛の片思いはそこら中にあるだろうし、好きなことを突きつめたくても才能が及ばない片思いもある。いい社会、平和な世界を望んでいるのに叶わない。それも圧倒的な片思いだ。

 私も自分のやりたいことと、やれること、求められることはなかなか相思相愛とはいかない。いくつもの片思いをこじらせながら50歳を過ぎてしまった。現代の効率重視の社会の中では歓迎されないだろうけれど、片思いはむだではない。思いを動かすのが一番難しい。知識をつけるのも、経験を積むのも。思いが動かないと何も始まらない。圧倒的に片思いでもいいじゃないか。少しは世界を動かせるかもしれない。そう思える作品です。

3人

 いずれも朝ドラ主演経験のある広瀬すず、杉咲花、清原果耶の3人が主演。これは見るしかない。僕は清原果耶をデビュー当時から推しています。なかなかヒット作に恵まれませんが(ヒットしているのかもしれませんが、これが代表作だといえる作品ありますかね?)、演技の幅が広い。NHKのドラマ「透明なゆりかご」の演技は特に秀逸でした。杉咲花は以前から活躍していますが、最近の存在感は特にすごい。広瀬すずは、以前は美少女ではあるけれど、俳優としては大したことないと思っていましたが、年齢を重ねていい味を出せるようになっています。この3人が一緒に暮らしているという設定を眺めているだけでも楽しい。

 この3人以外にも名脇役たちが多数出演。でもエンドロールを見ていると、作中で見た覚えがないのに松田龍平の名前が。もう一度さまざまなシーンを思い返して、あそこしかないとたどり着いたのがラジオのDJ。なるほど、あの力の入ってない声の感じ松田龍平だったんですね。松田龍平は田辺市に来たことがあるので、直接お話させていただいたことがあります。話し方が役の雰囲気と全然変わらなかったです。

合唱曲

 合唱が映画の重要なシーンになっているのですが、その楽曲「声は風」はおすすめです。映画の世界観にぴったりで、子どもの合唱を聞くと泣きそうになってきます。「歩き続けよう 歌い続けよう 胸躍る方に」。僕自身は歌は得意ではないし、専門的なことは分からないけれど、合唱って独特の魅力がありますよね。特に子どもが一生懸命歌っていると、心が揺さぶられる。この曲リピート必至です。

 一時期、学校でよく「世界に一つだけの花」が歌われていました。当時、仕事が忙しすぎて、誰の楽曲かも知らなかったのですが、どこの学校でもすごく子どもの声にあっていた。メンバーにあんなことがあって、この曲が流れる機会も減るのかもしれませんね。

編集後記

 導入や設定は結構驚きがありますが、展開はやっぱりそうか的なところもある。大絶賛とはいなかったですが、見て損はしない作品。3人の抑えめの演技は必見です。こうしたテイストの作品が海外でも評価されるのかも興味があります。

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