続編、後日譚こそ名作の条件/葬送のフリーレン

マンガ

葬送のフリーレン(原作・山田鐘人、作画・アベツカサ)

 魔王を倒した勇者一行の魔法使い・フリーレン。彼女はエルフで長生き。勇者・ヒンメルの死に何故自分が悲しんだのか分からず、人 “知る” 旅に出る。フェルン、シュタルクと “魂の眠る地(オレオール)”、今は魔王城がある場所を目指す。
 英雄たちの “心の内” を物語る後日譚ファンタジー!

少年サンデー公式サイトより

アニメ化されて話題になっているファンタジーマンガ。冒険の物語ですが、アクションがメインではありません。じんわり、いい話が満載の癒し系マンガ。さまざまな成長過程で、それぞれの楽しみができる良作です。優しい気持ちになりたい人はぜひ。

お薦め度 

ポイント

・続編、後日譚

名作の条件

・神話的構造 

・伏線回収 

続編、後日譚

 いい作品を見たら、続編、後日譚が気になります。「完結した作品の続きは書かない」と公言する作家も多く、自分で想像するだけの場合もありますが(これも楽しい)。

 ただ、期待値が高い分、続編が面白くない場合も少なくありません。映画だと監督とかスタッフが変わってしまって、「これが続編か」とがっくりしてしまうことも。

 そんな中で「ガンダム」の正統な続編である「Zガンダム」は賛否両論ありますが、僕は好きですね。戦争が終わった後も平和は続かない。かつてのキャラクターたちも立ち位置が変わっていたり、いなかったり。主人公だったアムロが低迷していて、ライバルだったシャアは名を変え活躍しています。ガンダムが分からない人にはさっぱりですが、この辺りの設定がすごくリアルで、物語が終わっていない、これからも続いていく。その中に自分も入り込んだような感覚が得られます。

 「葬送のフリーレン」はよくある勇者が魔王を倒す物語、ではなく魔王を倒した後から始まる物語。前作がないのに最初から続編、後日譚なのです。

名作の条件

 実は名作と呼ばれる作品は、初回から続編的な要素が含まれています。物語が始まる前からの物語が想像できるようにしっかり描かれているためです。例えば映画「スター・ウォーズ」。最初に発表されたルークが活躍するシリーズは、実は全9エピソードの4~6にあたります。本当に最初からそういう設定だったのかは分かりませんが、少なくとも架空の歴史がしっかり作りこまれています。僕の好きな「銀河英雄伝説」は物語の前の歴史的につくられていた設定が「面白い」と編集者の目に留まり「本編」となったそうです。

 「葬送のフリーレン」の勇者の物語は、勇者と魔法使い、戦士、僧侶が魔王を倒すというドラクエ的なパターン。今どき、この話が出てきたら、まったく受けないでしょう。というか、そもそも編集者もゴーサインを出さないでしょう。でも、後日譚設定により、かつてない物語に仕上がっています。まだ、名作と呼べるかどうか判断できませんが、現代と勇者の物語を行き来しながら重層的な世界観をつくっていて、名作群に連なる資格は十分あります。

神話的構想

 設定はたしか、勇者の物語から50~80年後?くらいの世界で、当時子どもだった人も年寄りになり、かつてを直接知る人が少なく、記憶が薄れているという設定。ただし、主人公のフリーレンは長寿のエルフという種族で、千年生きているので、50年とかは全然長くない。仲良くなってもずっと一緒には過ごせない。この設定が随所に生きています。

 そして、かつて勇者一行が冒険した旅路を、今度は僧侶や戦士の弟子たちと進む。メンバーが変わり、時代が変わり、まちの様子も変わっている。そこで、かつての旅とクロスしながら現在の物語が進行しています。フリーレンはかつては気づかなかった真理に気づいたり、かつての仲間と今の仲間で接し方が変わったり。本来なら同じ人間では経験できない物語を長寿のエルフだから体験できます。そこで、今を生きる、今しか生きられない私たちが何を感じるか。単純な冒険ものにない深さがここにあります。

伏線回収

 物語にちりばめられた小さなエピソード、セリフには伏線が幾重にも散りばめられています。例えば、勇者ヒンメル一行の銅像が世界の各地に建てられています。魔物から救った町から感謝されて作られたものです。等身大の銅像をあちこちにたてるのは趣味が悪い。普通ならそうです。しかもヒンメルはリアルにこだわり、どこかナルシストが入ってるようにも見えます。最初は笑い話として出てくるこのエピソード。でも、これは後世に1人で生きるフリーレンが、この旅を思い出せるように、いつでも勇者一行は一緒なのだと思えるようにとの思いを込めて作られていたのです。

 名作と呼ばれる作品には親子の対立や和解といった普遍的なテーマと、普遍性を感じるエピソードの伏線回収が入っていることが多い。志賀直哉の和解とかもそうですよね。ある時、意味が変わるエピソード。それを楽しみに読んでみるのも面白いかもしれません。

編集後記

 ありきたりになりそうな冒険物語を新しいスタイルで描いた意欲作。アニメ化されるのもうなづけます。無料のアプリで読んだだけで、本は持っていませんが、大人も読めるマンガとしてお薦めです。マンガ雑誌は読まなくなりましたが、今も子ども時代の僕がわくわくしたジャンプ、サンデー、マガジンなどで意欲作が生まれているのはうれしいです。マンガは紙媒体がなくなっても生き残れそうですね。新聞はどうか分かりませんが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA