アオアシ33(小林有吾)
スペインのクラブ、サバデルに移籍した若き日の福田。言葉の問題に直面し、はじめこそ試合に出る機会に恵まれなかったものの、福田ならではの方法で苦境を突破。試合で躍動し、チームの救世主となる。そして、ついに世界的クラブ、バルセロナとの大一番の幕が上がる。待ちのぞんだこの一戦が、彼にとって「運命の試合」となって、、、
本書カバーより
多くの日本人選手が海外で活躍する時代。世界トップレベルのリーグ、クラブでプレーする選手もいる。海外サッカーってそんなにすごいのか。代表戦、Jリーグしか見ない人のサッカー観が広がるはず。人気キャラクター、福田監督の若き日の真実が明らかに。
お薦め度
育成の仕組み
日本サッカーの育成システムは、欧州を手本にしている。でも、歴史はまだ浅いし、すそ野の広がり方は全然違う。スペインでは子ども時代から芝生のグラウンドでプレーするのが当たり前。配管工が監督をしている小さな町クラブでもだ。日本では芝生を経験するまでに辞めてしまう子どもも多い。大人のかかわり方も違う。平日に大人が仕事を休んで、サッカーを教えている。
お金の面でも優れている。スペインでは育成年代の子どもからは金をとらない。これはクラブの大小を問わずだという。遠征費が必要になるレベルの子どもだと、費用を負担できるクラブが引き抜く。クラブ同士の情報交換ネットワークが発達しており、才能のある子どもはすぐに拾い上げる。そのネットワークはプロの3部、2部のクラブとつながり、やがて1部につながる。才能を育てられるクラブが我先にとその子を受け持つ。
もちろん、さまざまな問題も抱えているけれど、金銭的な問題でサッカーに打ち込めないとことはないという環境。プロでなくても、さまざまなレベルで町中がサッカーを楽しめる環境。日本はまだまだ到達していない。
スタジアム
バルセロナの試合はテレビで観たことがあるが、会場に足を運ぶのとはだいぶ違うそうだ。それもそのがず。9万人も収容するスタジアムにバルセロナファンが世界中から集まる。一大テーマパークがバルセロナである。
子ども時代の一時期だけ、スペインで過ごしたことのある栗林は言う。「フットボールを一生続けるなら、世界をできるだけ早く見た方がいい」。バルセロナの引力は現地で体感してこそ実感できる。
スタジアムに併設されている通りは、バルセロナというクラブの魅力を伝えるためだけに作られている。クラブが作ったカフェもある。グッズショップは3階まであり、試合のない平日も大勢の客が押し寄せる。バルサミュージアムや、スタジアムの中を見学できるツアーもある。
世界屈指のクラブならでは。日本にも人気クラブはあるが、海外にまでファンがいて、スタジアムに観光に訪れる。そんなチームはまだ存在しない。
海外選手
海外で活躍する日本選手は増えている。世界最高峰の英国プレミアリーグでは、冨安、三苫、遠藤が。2部に当たるチャンピオンシップでも代表を狙う逸材が活躍している。スペインでは久保、フランスでは伊東や南野、中村。苦戦している選手も多いが、イタリアに鎌田、ドイツは堂安や浅野をはじめ多くの選手がいる。名門チームの下部には20歳未満の選手も在籍しており、虎視眈々とチーム内での一部昇格を目指している。
アオアシ作中では、主人公のアシトが所属するチームが国際大会に出場する。初戦の相手はバルセロナ。他にもレアルマドリード、バイエルン、アーセナルなど世界の名門チームが出場する。欧州のスカウト網は日本にも広がっているとはいえ、まだまだ距離の問題がある。国際大会は若手の見本市。日本人選手が一気に飛躍する可能性がある。アシトやチームメイトはどんな評価を受けるか。日本のユース年代トップレベルのチームは、世界で通用するのか。次巻以降も楽しみな展開が続く。
編集後記
ほとんど唯一、新刊が出るたびに取り上げているアオアシ。人気キャラクター福田監督の若き日はやはり才能にあふれていた。Jリーグ開幕以降、世界に飛び出すきっかけを作ったのは中田英寿。中村俊輔や小野伸二、内田、長友、本田、長谷部など少しずつ信頼を築き、今や各国リーグで日本人が活躍している。世界五大リーグで日本人選手対決があることも普通になってきた。こうして世界とつながるのがサッカーの魅力。Jリーグの評価ももっと上げたいところだが、今は過渡期。まずは日本選手の価値をもっと広める必要があるのかもしれない。