ムーン・パレス(ポール・オースター)
人類が初めて月を歩いた春だった。父を知らず、母とも死別した僕は、唯一の血縁だった叔父を失う。僕と世界を結ぶ絆だった。僕は絶望のあまり、人生を放棄しはじめた。やがて生活費も尽き、餓死寸前のところを友人に救われた。体力が回復すると僕は奇妙な仕事を見つけた。その依頼を遂行するうちに、偶然にも僕は自らの家系の謎にたどりついた……。深い余韻が残る絶品の青春小説。
新潮文庫カバーより
米国文学好きが絶賛する作品ですが、僕としては微妙かな。全然面白くないというほど悪くはないけど、もっと良質の作品はいくらでもあるのに思ってしまう。単に僕に読み取るセンスがないだけなのか。海外物はあまり読まない人はこれから入るのはやめておいた方がいいかも。
お薦め度
本当に面白いのか
アメリカで高い評価を受け、日本でも人気の青春小説。でも、僕は基本的にこの手の評価はあてにしない。というか、そういわれれば興味は持つけれど、かえって評価のハードルは高くなるかもしれない。基本的にこのブログは批評というより、お薦めの作品を紹介することに重点を置いてるが、この作品がお薦めかというとそこまででもないかなというのが正直な感想。絶品の青春小説とあるが、もっと優れた青春小説、マンガ、映画は山ほどあるのではないか。
でも、アメリカらしい。全然内容は違うけれど、「ライ麦畑でつかまえて」を読んだ時のような。ところどころ、面白いところもあるけれど、全体としてこのノリにはついていけないなという感覚がある。思考もそうだし、ムーン・パレスでいえば人の死が、生き方が雑というか大雑把に描かれて入り込めない。それが文学の面白さだとしたら、僕は文学を全然読んでいないのだろう。
3世代の物語
小説の構造は重厚だ。3世代の物語が神話のように繰り返される。それも世代順ではない。主人公は3世代目、そこから1世代2世代目の物語が意外なところからつながっていく。3世代が同じようなパターン(親を亡くしたり、道を見失ったり)を繰り返すところが神話の構造。さらに、物語の中で語れる物語。どの世代にも共通して登場する月のシーン。とてもよく考えて構成されている。でも、前述のように話が雑。設定はすごく好きだけど、もったいない。
青春小説のお薦めは「夜のピクニック」「桐島、部活やめるってよ」「4TEEN」「いちご同盟」、アメリカでも「スタンドバイミー」とか。この辺は重厚さはないけれど、今まさに青春という世代に読んで欲しい作品です。
青春の名言
おじさんの本を読んで、読んだ本を古本屋で販売して生活費をかせぐ。ところが、本は安値で買いたたかれる。書物というものに対する理解も僕とはまるで違っていて、言葉に窮してしまうこともしばしばだった。本とは単なる言葉の容器ではなく言葉それ自体であり、したがって本の値打ちも、その物理的状態ではなく精神的内容によって決められるべきものだった。これすごく分かる。まあ、精神的内容によって本の値段が変わるといい本が高くなってしまうので、読み手としては困ってしまうが。
いいことが起きるのは、いいことが起きるのを願うのをやめた場合に限れるという事実を発見した。これが正しいとすれば逆もまた真ということになる。すなわち、ものが起きるのを願えば願うほど、それが起きるのを妨げてしまっているのだ。願わなければ何も起きない気がするので、この論理が合っているどうか分からない。だが人生の中で、こう感じることはある。願うだけではだめだけど、願わないと何も起きない。実際はこんなところだろうか。
何が見えるか?その見えた物を、どう言葉に置き換えるか?世界は目を通して我々の中に入ってくる。だが、それが口まで降りてこなければ、世界を理解したことにはならない。これは言葉を扱う仕事をしている人には響く。すべてが言葉で伝わらないかもしれないけれど、伝える努力は必要なのだ。
編集後記
冒頭で編集後記的な部分を書いてしまったが、僕自身はそこまでお薦めする作品ではない。でも多くの支持を得ている作品で、面白い人には刺さる要素がある。僕の好みとしてはもっと繊細で、いろいろなことをお金で解決するだけでなく、きっちり向き合って、裕福でも貧しくても、誠実にでも破天荒にでも、絶対的な正義なんか信じず迷いながらも、つまづきながらも歩く青春小説が読みたい。でも、この物語のラストは余韻が残る言い終わり方だ。