あなたは地方派、都会派?/島はぼくらと

小説

島はぼくらと(辻村深月)

 瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花、源樹、新の四人は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。(講談社文庫より)

熊野堂
熊野堂

地方で暮らしたいかどうかは、今どこに住んでいるか、どこの出身かによって変わりますよね。作品の中の島の世界は、僕の地元と近い。いいとこも、悪いとこもあってそれをひっくるめて好きかどうか。地方での暮らしを考えたい人にお薦め。

お薦め度 

ポイント

・島の暮らし

・都会に出たい

・地方のリアル

・地方で暮らしたいですか?

島の暮らし

 僕は島の出身ではありませんか、かなり島に近い半島の先端の出身です。町内に島があり、同じ高校には島から船で通学してくる同級生がいました。だから、島の暮らしはとてもリアルに感じます。作品の島は瀬戸内海なので、あまり海が荒れないのかもしれませんが、僕の町は太平洋に面しているので、波浪警報もちょくちょく出ます。すると船が欠航になり、島の生徒は公欠扱いになっていました。ちなみに、定期船に乗り遅れた同級生は、知り合いの漁師に乗せてもらって、滑り込むことがありました。その日も漁師に乗せてもらって遅刻寸前で滑り込んできた同級生。ある異変に気付きます。島の連中がいない。この日は定期船が欠航になっていた。つまり公欠扱いだったのです…。

 今は島に橋がかかって、離島ではなくなっています。でも中学を卒業したら、本土の高校へ。高校卒業後は島に残るか、町外に出ていくか。選択が迫られるのは変わらない。こうした生活が身近なので、作品世界は共感できる部分が多かったです。

都会に出たい

 4月は新しい生活を始める人も多いはず。今年も多くの人が地方を離れるはずです。作品に出てくる島の若者が島の外に新しい世界を求めるように、僕も地方から都会に出たいと思っていました。都会でなくてもいい。この地方という閉じられた空間から抜け出したいと。

 単純に高等教育機関はないし、就職先だって限られる。地方では自分で商売している人や一次産業が多いので、それに就かない人は選択肢が限られます。島から、地方から一時的に出ても、戻ってくる人も多い。僕も戻ってきた一人です。今も都会に出たいかと言われたら、うーん、出たい気持ちはありますね。都会というか、いろいろな場所で暮らしたい。学生の時のように地方が嫌ではなくなったけど、だからこそ、他の土地ももっと知りたいと思ってます。

地方のリアル

 作品では島で暮らす高校生の友情や恋愛、地域とのつながりなど美しい島の景色と一緒に、地方の抱える面倒臭さもきっちり描かれています。周囲の干渉をありがたいと思えるか。常に監視されていると感じるか。これは地方も都市も同じかもしれませんが、政治家や有力者のつながりだけで物事が進んでいったり、彼らの面子が立たないと物事が進まなかったり。ユートピアでない部分がリアル過ぎるくらいに描かれています。ストーリーはもちろん面白いけれど、地方在住者としてはこの部分が一番評価高いポイントかもしれません。

でも、旧態依然とした人々が悪いとも言い切れない。彼らが支えている地域のコミュニティーは確実にあり、功績もある。そこに新しい要素をどう混ぜ込めるか。作品ではソーシャルコーディネーターが活躍しています。

地方で暮らしたいですか?

 地方から都会に出たがる人がいる一方、都会には地方に行きたい人が一定数います。作品でも島には移住者が増えている。シングルマザーへの支援が手厚いことで、子連れで移住する女性も多い。主人公の高校生たちの中には、島を出ていく子もいるけれど、島への愛着は強く、力を付けて戻って来たいと考えている。

 地方と都会、どっちがいいと思うかは何をやりたいかや、育った環境によって違うでしょう。でも、今は二者択一の時代ではありません。地方にいながら都会の会社で働くこともできるし、都会で働きながら休日を地方で過ごすこともできる。地方に住んでいても、ネットショッピングをすればすぐにほしい商品は届きます。賃金は安くても、生活費も安い。通勤電車に揺られることもない。都市にしかない店や文化施設はありますが、それも遊びに行けばいいだけ。そもそも、店や施設を楽しむ意識がない人は都会にいてもそんなところには立ち寄らないでしょう。地方と都市の差はどんどんなくなってきています。どちらも楽しむ人が増えるとうれしいです。

編集後記

 この作品を読んでいると、こんな島があったら行ってみたいなという気持ちになると思います。僕は地方がユートピアでないことを知っていますが、それでも「いいな」と思ってしまいました。全国の地方を移り住み、たまに都会に遊びに行く。そんな生活が理想かな。

 

 

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