「篤姫」再放送中、江戸時代は常に人気/まいまいつぶろ

小説

まいまいつぶろ(村木嵐)

 口がまわらず、誰にも言葉が届かない。歩いた後には尿を引きずった跡が残るため、まいまいつぶろと呼ばれた君主がいた。常にそばに控えるのはただ一人、彼の言葉を解する何の後ろ盾も持たない小姓・兵庫。

 だが、兵庫の口を経て伝わる声は本当に主のものなのか。将軍の座は優秀な弟が継ぐべきではないか。疑念を抱く老中らの企みが2人を襲う。

 麻痺を抱え廃嫡を噂されていた若君は、いかにして将軍になったのか。

                                        幻冬舎より

熊野堂
熊野堂

珍しく時代小説。本屋が選ぶ時代小説大賞受賞作。帯には落涙必至の傑作歴史小説とありますが、それはちょっといいすぎ。江戸時代でもあまり知られていない9代将軍を題材にしている点は面白い。普段時代小説を読まない人も入りやすいです。

お薦め度 

ポイント

・徳川の歴代将軍どれだけ知ってますか?

・新しい社会

・ラブストーリーも

・もしミステリーなら

徳川の歴代将軍どれだけ知ってますか?

 徳川の歴代将軍。家康と8代目の吉宗は有名ですよね。戦国ものを読む人は2代目の秀忠、時代劇が好きな人は3代目の家光、幕末が好きな人は慶喜。この辺りはまあ分かる人が多いのでは。僕もその程度です。

 今大河ドラマの「篤姫」が再放送中で、当時観ていなかった僕も視聴しているのですが、ここで登場する将軍は13~15代。13代家定は脳性麻痺だったとも伝えられています。ドラマではバカなふりをして、実は切れ者、でも早くに亡くなるというドラマらしい展開です。

 本書の将軍は9代家重。吉宗の息子です。徳川御三家、尾張、紀伊、水戸。その中で、紀伊、紀州藩の血筋ですね。実は和歌山から結構将軍が出ているのは、意外と知られていないのでは。

 総理大臣の出身県ランキングでは東京、山口、岩手が上位で、和歌山県はおそらく1人のみ(片山哲)だと思いますが、将軍は結構出しているんですね。

新しい社会

 家重は、病弱で言語障害があり、酒食や遊芸にふけって、武芸は怠りがちだったとあります。本書の家重はそれどころか、体にも麻痺があり、自由に動き回れません。まいまいつぶろとは、カタツムリのこと。臣下からも侮られ、哀れみの目を向けられる屈辱に耐えてきました。それが言葉を理解できる大岡忠光と出会い、世界が少しずつ変わってきます。

 家重は実はかなり有能という設定で、誠実に家重の口となれる忠光を通じ、政治を動かしていきます。何人かの有能な家臣も家重に従います。その一人が田沼意次。歴史上は賄賂問題などで有名ですが、経済政策に通じており、活躍します。

 障害を持つ人の社会参加が江戸時代から(の方が)実現していたのかもしれません。

ラブストーリーも

 エンタメには欠かせないラブストーリー。障害を持つ家重と、そうとは知らずに婚姻を決められた皇族出身の増子女王。初対面は最悪でしたが、やがて家重の誠実さに惹かれていくという展開。ここだけ切り取ると少女マンガのようですが。言葉がなくても夫婦になれる。イエスの時は手を一度、ノーの時は二度握る、みたいな夫婦間のルールも決めて意思の疎通を図るなど、異色のラブストーリーがなかなか面白いです。

 増子女王は早くに亡くなってしまいますし、家重はその後、増子女王に仕えていた女性との間に子をもうけ、同じく仕えていた別の女性との間にも子どもができます。背景にはいろいろ事情があり、家重は増子女王をずっと思っていたという設定ですが、現実の世界はどうだったのか。

 再放送中の篤姫でも、篤姫と家定のロマンス?が見どころの一つです。

 

もしミステリーなら

 話はそれなりに面白かったのですが、もっとミステリー色が強かったらどうでしょう。忠光は本当に家重の言葉を伝えているのかー。頭の切れる忠光にはある企みがあるのではないか、解決していく事件の影にあるのは一体、そして真実は、、、。みたいな展開にラブストーリーも主従を超えた友情なども盛り込めばなどと勝手なことを思いながら読んでいました。登場人物それぞれにミステリアスな部分もあり、田沼の描き方なんかもすごいよかったので、余計なスパイスは加えない方がいいんでしょうけどね。

 あなたなら、どの将軍を題材にした作品を読んでみたいですか?

編集後記

 時代劇は江戸時代が定番。本当は何時代でもいいはずですが、時代が比較的近く、文化も現代に通じるものがあるから分かりやすいのでしょうね。大奥、文化人、庶民の暮らしなど。設定だけでも楽しみが湧きます。でも、馴染みのない時代の時代劇も読んでみたい。いい作品があったら教えてください。

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