烏に単は似合わない(阿部智里)
人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」で、世継ぎである若宮の后選びが始まった。調停で激しく権力を争う大貴族四家から遣わされた四人の后候補。春夏秋冬を司るかのようにそれぞれ魅力的な姫君たちが、思惑を秘め后の座を競う中、様々な事件が起こり…。史上最年少松本清張賞受賞作。
文春文庫カバーより
これはファンタジーー?、ミステリー?、ラブロマンス?。ジャンルレスな意欲作。これが松本清張賞というのも意外ですが、審査員は思い切って選んだと思います。ファンタジーはちょっと苦手という人も、本格ミステリーはちょっとという人もこれなら納得では。
お薦め度
女心、男心が分かりますか?
女心や男心なんて、そのうち死語になるかもしれません。いや、どうもなりそうにありません。性の多様化は進んでいますし、女性だから男性だからという境界もなくなっています。言葉としてはなくなっても、このニュアンスはきっと残る。人類史上絶えたことがない、文学の歴史でも常に取り上げられてきた題材です。
分かるか、分からないかと言われたら、分からない。だからこそ、文学の題材になるのでしょうね。
流行は少女マンガチック
大河ドラマ「光る君へ」が好評です。要因はさまざまですが、少女マンガチックな展開もその一つ。出会い方とか、ラブシーンとか。少女マンガやんという。この作品に登場する四家の姫も、勝気、おしとやか、クール、天然とマンガチックに個性が分かれています。男性目線ではどの姫が好みか論争が起こるかもしれません。
4人の姫が競いながら友情を深めるという要素もあるにあるのですが、ここからは少女マンガと異なる展開に。次々に起きる事件の伏線は、姫たちの日常に盛り込まれています。姫の争いに目を引き付けられているうちに、物語は思わぬ方向に。さまざまな仕掛けがあるのですが、根底にあるのは人を思う気持ち。それは正しいとか、正しいとかじゃなく人を動かします。
極上のミステリー
ファンタジーかミステリーか。そんな小さなジャンル分けではなく、様々な要素を含んでいるのがこの作品の魅力です。最初は「これが松本清張賞?、ファンタジーノベル大賞の間違いじゃないの?」と思ってしまいますが、ぜひ最後まで読んでください。ミステリー要素もかなり強いです。
若君からの手紙が届いていないのはなぜか?女中が変死したのはなぜか?首を取られた侵入者は誰だったのか?そして、后には誰が選ばれるのか。そのため、水面下で各々がどんな策略をめぐらせているのか。いろいろな謎が解けていくクライマックスは気持ちいい。ぜひ、最後まで読んで確かめてください。
八咫烏とは
八咫烏とは3本足の大烏。サッカー日本代表のユニフォームをよく見てください。日本サッカー協会のシンボルである八咫烏がデザインされています。日本では古来から神話に登場する烏。そして、熊野堂の活動拠点、熊野のシンボルでもあります。そのため、日本サッカー協会は五輪やワールドカップなど大きな大会の前には熊野の神社で必勝を祈願しています。
ただ、作品中の八咫烏は熊野の八咫烏や神話の八咫烏、中国の八咫烏をモデルにしているかどうかはよく分かりません。八咫烏という設定が後々どう生きるのか。シリーズ化されているので、追いかけていこうと思います。
編集後記
僕は絶賛するほどはまってはいないのですが、妻は新作が出るたびに買っていて、かなり高く評価しています。確かに設定は面白い。最近、NHKでアニメ化されましたが、この出来も素晴らしい。作品のイメージを損なっていません。小説を読むか、アニメから入るか。いずれにしろ、両方を楽しんでもらいたいです。