100年に1作の傑作は本当? 世界5千万部のベストセラー/百年の孤独

小説

百年の孤独(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

 蜃気楼の村マコンドを開墾しながら、愛なき世界を生きる孤独な一族、その百年の物語。錬金術に魅了される家長、いとこでもある妻とその子供たち。そしてどこからか到来する文明の印……。目も眩むような不思議な出来事が延々と続くが、予言者が羊皮紙に書き残した謎が解読された時、一族の波乱に満ちた歴史は劇的な最期を迎えるのだった。世界的ベストセラーとなった20世紀文学屈指の傑作。

                                      新潮文庫カバーより

熊野堂
熊野堂

文庫化で話題の名作。タイトルと内容のあらましは知っていましたが、なかなか読む機会がなく、ブームに乗って読破しました。万人にお薦めできる本ではありませんが、なるほど、いろいろな作品に影響を与えているなと感じます。本を読み慣れていて、まとまった時間が取れる方は挑戦してみて。

お薦め度 

ポイント

・あなたは孤独ですか?

・同じ名前の登場人物

・マジック・リアリズム

・圧倒的影響力

あなたは孤独ですか?

 登場人物の孤独や葛藤、社会、家族との隔絶は普遍的なメッセージが込められています。南米とは地球の裏側、距離も時間も離れているのですが、私たちにも通じるものがあります。文庫カバーには愛なき世界を生きる孤独な一族、とありますが、作中の一族は必ずしも愛に欠けているわけでなく、孤独なだけでもないように思います。

 一から村をつくっていく中で、家長が周囲から得る信頼。さまざまな背景から何世代にもわたって生まれてくる子どもたちとの出会い。ほんの短い間にほのぼのした時間もあります。

 ただ、キャラクターがとにかく極端に突っ走り、続々と悲劇的に亡くなっていきます(一方で、めちゃくちゃ長寿のキャラクターもいますが)。孤独なキャラクターたちのどこに共感するか。読者によって評価が分かれそうです。共感という意味ではなかなか共感できなかったですが、僕自身は家長の妻、ウルスラの役割が似ているのかなと感じました。

同じ名前の登場人物

 ストーリーを難解にしているのは登場人物の名前ではないでしょうか。アルカディオとアウレリャノ、家長(ホセ・アルカディオ・ブエンディア)の2人の息子の名前はその子供にも受け継がれていきます。名前だけでもややこしいのに、どうも性格まで引き継がれていくようで、途中にこんがらがる人は多いはず。こうした繰り返しは神話の時代から続く手法ですが、名前の繰り返しは日本ではあまり見ない気がします。

 女性にもレメディオスの名前が受け継がれたりするので、余計にややこしい。これが7世代にわたって続いていきます。確認には家系図が必須かもしれません。

マジックリアリズム

 マジックリアリズム、現実と幻想の融合が作品に神秘的な雰囲気を与えています。そんなばかな、ということが起こるんですが、作品世界ではすんなり受け入れられ、何事もなかったかのようにストーリーが続いていきます。こうした手法は日本でも用いられていますが、南米のこの村ならこんなことも起こりうるのではないか、そんな地の利(?)を生かしたマジックリアリズムは強烈です。

 そうした手法を用いながら家族の物語、孤独と情熱のはざまで生きる人々、忍耐力で家族を支える人々のリアルが描かれる。最後の予言も魔術めきながら、不思議なリアリティーで物語をつないでいきます。

圧倒的影響力

 明言はしていなくても、この作品の影響を受けた作家は多いはずです。この物語の構造は中上健次の作品にも通じます。中上作品も和歌山(新宮)の路地を舞台に、繰り返しの物語が描かれます。南米の村ではないですが、新宮も日本の端っこで、神秘性もあり、閉鎖性もあります。近い血族で結婚を繰り返していくところなんかも共通しますね。

 もっとも、この構造自体は神話の時代から続くものです。まったくジャンルは異なりますが、映画「スターウォーズ」もこの手法を用いていると思います。表層に出る部分は南米での一族、新宮の一族、宇宙の一族ですが、根幹には共通する部分がある。専門家には怒られそうですが、神話的手法という分野を設ければ、これらの作品は同じジャンルにくくることもできると思います。

 ちなみに、僕は未読ですが、中上には「千年の愉楽」という作品があります。あきらかに百年の孤独を意識していますよね。もっとすごいぞ、という意識が千年に込められている気がします。

編集後記

 一読だけではなかなかつかみきれない作品。たまたま、休みが取れ、電車で出かける機会があったので、移動中に大部分を読みましたが、そうでなかったら読み始めるのも難しかったかもしれません。作品の好みはそれぞれですが、読書好きは一度読んでみる価値はあると感じました。もう一度読むかは未定ですが、少し時間をおいて読みたいです。

 

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