ニュースの未来(石戸諭)
テレビは視聴者離れを憂い、綺羅星のようなライターを生み出してきたいくつもの雑誌が歴史的な使命を終えて、休刊という道を選びました。ニュースは金がかかる、という理由で潤沢な取材費を出せる媒体も減っていることは間違いありません。ニュースをめぐる環境は悪くなっていくばかり…と誰もが思っています。
本当に希望はないのでしょうか。
本書「はじめに」より
毎日ニュースを見ているよ、という人がどれだけいるでしょうか。新聞、テレビ、インターネットでさまざまニュースがあふれているのに、見られていない。ニュースが未来はあるのか。ニュースに携わっている人はもちろん、ニュースを見る側にも読んでもらいたい。ネット時代のニュースを考える1冊です。
お薦め度
新聞は大丈夫か
今、「ニュース」に携わる人たちは大いに自信を失っています。冒頭の一文、大きくうなずいてしまいました。地方紙の記者を20年以上やっていますが、新聞業界の衰退はすさまじいものがあります。一方で、地方新聞のほんの小さな記事が、人の生き方を、地域を動かしていると感じる瞬間を何度も経験してきました。
新聞社の経営が厳しい時代に入っているのは間違いありません。でも、どんな形であれニュースが世の中からなくなることはないはずです。魅力的なニュースを発信するにはどうすればいいか。僕より1世代下のノンフィクションライターの提言する「良いニュース」にはなるほどと思わされる部分が多かったです。
この本をきっかけにというわけではないですが、今新聞のニュースを変えようと取り組みを始めました。いや、まだ始めようとしていますの段階かもしれません。クリエイティブで、わくわくさせて、変革へのエネルギーを生み出すニュース。正月にSNSで宣言してしまいどうしたものかと思っていたのですが、新しいニュースの姿の片りんを見せられたらいいなと思っています。
新しいの価値
ニュースと言えば新しいもの。新聞は速報競争を繰り広げてきました。でも、テレビが登場し、1日1~2回発行の新聞は遅れを取るようになりました。インターネットの出現で、速報はいつでも出せるようになったものの、ネットでは出した瞬間にニュースが古くなります。後発がすぐに同じニュースを発信する。際限のない速報競争が始まりました。
新しいニュースもいろいろで、例えば明日発表される内容を半日早く報じるのも速報です。いずれ明らかになるのに意味があるのでしょうか。そう思うことはあります。ただ、この半日早く報じるには、発表を待つより裏付けをとるために相当な苦労があります。ある人から「実はこんな情報があるんだ」と特ダネがもたらされるケースはまれです。逆にさまざまな抵抗をかわし、説得し、ようやく獲得できます。それがたった1日で、もしくは数時間で特ダネではなくなります。この競争だけではニュースはよくならないでしょう。
でも、いつまでも古くならない記事があったらどうでしょう。今起こっていることを書くだけがニュースではありません。ネット上ではニュースは流れていくだけでなく、ストックされていきます。読者がニュースに接した瞬間が「今」であり、「新しい」ものが生まれます。現代社会への批評性があれば、かつてのニュースも読者にとっては新しいニュースとなります。
PV競争の果て
ニュースは無料で読めると思っている人がいます。実際、ネット上では無料のニュースが配信されています。有料で販売している新聞社でさえ、その記事(の一部)を無料でネット上に配信しています。
でも、実際のニュースは無料ではありません。取材には費用がかかります。記者の生活もあります。ではなぜ無料で配信できるのか。ネット広告で収入を得ているからですが、ニュース作りを支えるだけの収入はそうは得られません。そのため、いかに見てもらえるか。PV競争が過熱しています。代表的なのが見出しです。感情を刺激する見出しで目を引き、PVを稼ぐ。ニュースの本質を競うのでなく、見出しのテクニックで競うことが目的化してしまっています。もし、見出しで興味を持って、ニュースを見てがっかりした。そんな経験があるはずです。そんなことが続けばニュース全体の信頼性が揺らぎます。
ヤフーの存在も大きい。ヤフートピックスに掲載されると、PVは飛躍的に増えます。なので、各社がやヤフトピにいかに掲載されるかを研究するという、滑稽な事態が起きています。多くの人にみてもらってこそのニュースですはありますが、この現状を変えなければニュースに未来はありません。
答えのない時代のニュース
新聞記事は簡潔に結論を言い表します。社説では結構上から断言したりもします。でも現実の社会は答えのすぐに出ない問題ばかりです。本書で一番印象に残ったのは実はこの部分かもしれません。「答えの出ない事態に耐える力」。性急に証明や理由を求めずに、不確実さ不思議さ、懐疑の中にいることができる能力です。
ニュースの伝達速度が速くなり、人は答えを急ぎます。SNSで怒りを表明し、感情の連帯を強めることも大切かもしれません。でも現場に足を運び、立場の異なる人間と対話する。急いでニュースを出すだけでなく、いったん立ち止まって考える時間を大切にするニュースも必要という話は腑に落ちました。
編集後記
速く、簡潔に。ニュースの基本はそうですが、それだけでは足りない。速くて(新しくて)、分析できて、物語がある。そんなニュースをつくれるか。挑戦の結果はいずれ報告したいと思います。