なぜ何事もうまくいかないのか。奴隷でなく主人公になろう/人はなぜ物語を求めるのか

実用書

人はなぜ物語を求めるのか(千野帽子)

人の思考の枠組みの一つである「物語」とは何だろう?私たちは物語によって救われたり、苦しめられたりする。その仕組みを知れば、人生を苦しまずに生きられるかもしれない。物語は人生につける薬である。

ちくまプリマ―新書カバーより
熊野堂
熊野堂

人は何かと物語ってしまう。日常の会話でも自己紹介でも。自分の生き方も勝手に物語をつくって進めている。そんな指摘にドキッとする人は多いのではないでしょうか。毒にも薬にもなる物語。これを読んでぜひ薬として生かしてみて。

お薦め度 

ポイント

・分かったの麻薬

・何のための苦悩か

・世界はどうある「べき」か

・自分が自分の主人公であるために

分かったの麻薬

 人は不本意な状況に陥ると、「なぜ私が?」という問いが起こり、ストーリーが無理やりそれに答えようとします。「そんなばかな」と思いますか。

 本書ではこんな事例を挙げています。「あなたが不本意なのはお墓の掃除をしていないからだ」と霊能者に指摘されて、ハッとなる。普通だとそれとこれとは話が別だろうと思いそうなものですが、そうかこの不本意な状況にもそんな理由があったのかと「分かって」しまう。もちろん、墓掃除はいいことですが、もしかしたら霊能者から「ありがたいグッズ」を売りつけられ、喜んで買ってしまうかもしれない。余計不本意な状況になっているのに、物語は「ハッピーエンド」に向かっていく。物語にはこんな怖さもあります。

 なるほど。なぜ、そんな手口で騙されるのと(他人事だと)思いますが、人にはそんな心理があると「分かる」と納得感は得られますね。物語は不本意な状況から始まり、新たな平穏状態を求めて動いていきます。

何のための苦悩か

 悩みが多い人っていますよね。僕もそうです。悩みは多い。ドイツの哲学者・ニーチェはざっくりこう言っているそうです。「人間の問題は苦悩そのものにあるわけではない。何のために苦悩するのかという叫びに、答えがないことが問題だったのだ

 生きること=苦、だとしたら、生きる苦しみが何のためにあるのか知らないことが最大の苦しみだというわけです。悩みが多い人は納得しそうな論理ですが、そうでもない人は「ばかだな」と思うかもしれません。悩みの多い僕も、それはちょっとなと思いますが。

 こっちはどうでしょう。「がっかり」は期待しているときにだけ出てくる希望まみれの言葉(桝野浩一)

期待しているときに希望まみれの言葉がでるか。それとも、期待しているときには希望は持てないのか。

「夜と霧」では人生への期待をやめ、人生が自分に何を期待しているかを考えるようになります。「なぜ、私が?」と問うストーリー形式から、「人生が私に何を期待しているか?」と問うストーリー形式への転換する。どんな物語を選んで生きるのか。私たちは常に選択しています。

世界はどうある「べき」か

 人は因果応報的な世界を夢想し、世界はそのように公正である「べき」だと考えがちです。こうすれば、先々よいことがある。こういう悪いことをしたら、罰があたる。という規範を持つことは良い作用もあります。でも悪い結果が出た時に、「これはきっと悪い原因があるに違いない」と勝手に空想してしまうこともあります。

 2011年の東日本大震災で福島の原発を破壊した津波について、当時の石原慎太郎都知事は「天罰だと思う」というような発言をしましたが、これなんかがまさにストーリー的な意味づけというわけです。もちろん、津波は津波であり、人の行いと何の関係もないのは自明です。でも、ただの不幸なできごとだと耐えられないので、「意味のある悪い結果」としてとらえ、「原因」を見つけてします。

 無茶苦茶なようでいて、実際身近にもこんなことありますよね。自分の中でもあるかもしれない。滑稽な陰暴論もきっと前後で無理やりストーリーをつくっています。ストーリーになるとそれなりに納得感が得られる。物語の毒の部分です。

自分が自分の主人公に

 あなたは自由に生きていますか?自分の物語の主人公でいられますか?それとも物語の奴隷でしょうか?

感情の赴くままに生きている人は、自由でうらやましいと思っていませんか。これって本当に自由でしょうか(勝手ではあると思いますが)。例えば、かっとなって何かしてしまう。これは感情の奴隷で、自由からは程遠い状態です。

 自分のストーリーの主語は他者(世の中は分かってくれない)でなく、一人称単数(私はこうする)にすることがストーリー的な苦境から脱する第一歩、本書はそう記しています。世の中自由にできることは決して多くありません。でも、できごとに対する自分の態度は自分で決められるはずです。

編集後記

 物語の毒の部分をあまり考えたことがなかったので、新鮮な驚きが多い作品でした。スラスラ読める部分もあれば、ひっかかる部分もあるのですが、気になる部分だけでも読んでみてはどうでしょう。因果応報的な考え、べき論は世界に蔓延してますし、自身の中にも少なからず存在しています。自分で選択できる範囲のことは自分で選択する。単純ですが、これが主人公になる唯一の方法かもしれません。

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