地域おこしって何だろう/ひとしずく

映画

ひとしずく(2024年、日本)

 やりたいことや目指したい道がないまま東京で一人暮らしをしている坂本香澄は、田舎暮らしへの憧れと人生のリスタートを切りたいという思いから奮起し、本土最南端の鹿児島県南大隅町の地域おこし協力隊に着任する。思い描いていた生活とのギャップに戸惑いながらも町の人々と手を取り合い、様々な壁を乗り越え、泣き、笑い、学び、暮らしていく中で人として成長していく物語。

公式パンフレットより

 地域おこし協力隊のリアルを描いたドラマ。地方移住の経験者はもちろん、地方在住の人には思い当たる「あるある」があふれた作品です。なので、舞台の南大隅町を知らなくても(僕も知らなかった)、自分のまちを投影して楽しめます。全国公開されている映画ではなく、なかなか観られないのですが、応援の意味も込めて紹介します。

お薦め度 

ポイント

・地域おこし協力隊

・移住先のチョイス

・世界の隅っこで、何か叫びたい

地方でつくる映画

地域おこし協力隊

 地域おこし協力隊は都市から人口減少や高齢化等の進行が著しい地方に移住して、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みです。任期は3年以内。

 僕は実際に協力隊や協力隊経験者に何人も取材しているし、長く付き合っている人もいるので、映画のリアルさがよく分かります。協力隊と地域とのギャップは何度も目にしてきました。協力隊になろうと思う人は、地方で自分のやりたいことを実現したいと考えている人が多いです。でも、みんな個性は豊かですが、特別なスキルがあるとは限りません。その中で自分のできることをする。それって、協力隊でなくても誰だってそうですよね。

 でも、地域の人はどうも特別を求めがち。何より来たばかりの協力隊に「永住」を求めがちです。人がどこに住んで、どんな仕事をするかは自由です。基本的に赴任地で頑張ろうと来ているのは共通していますが、縁もゆかりもなかった土地で、永住するかどうかなんてその時点ではまだ決められないですよね。でも、ずっとその土地に住んでいる人は何の悪気もなくそれを求める。

 自己実現と地域貢献のバランスの問題でもありますが、個人としてはまず自己実現ですよね。それが地域貢献になればなおいいけれど。地元民だって、自己実現の積み重ねが地域貢献になっているわけですし。地域貢献を求めすぎるのはどうかと思います。もちろん、協力隊も地域貢献と称して、自己実現に走ると共感は得ないですよね。映画の中でも主人公が自分の思いだけで突っ張るシーンがありますが、ほんとにこれもあるあるです。

移住先のチョイス

 コロナ禍で都市からの地方移住が加速しているようです。でも、移住先って何を基準に選んでいるのでしょう。「自然が豊か」「人が温かい」「星がきれい」都市部の人が地方をほめる「常套句」ですが、これって全国の地方に当てはまる話で、移住の決め手ではないですよね。移住者に聞くと大抵の人は「人との縁」を挙げます。この人がいるから、移住を決めた。そんな人がいる場合が多いようです。

 映画でも主人公は東京で移住キャンペーンをしている役場の人にたまたま出会い勧誘(主人公はスカウトと表現)されます。それまで全く知らなかった土地、しかもちょっと前に友人との会話で「与論ってどこ?鹿児島?(旅行先として)遠いよ」と話していたシーンがあったばかり。そんな感覚が一変する瞬間がある。これも一つの縁ですね。

世界の隅っこで、何か叫びたい

 世界の中心で愛を叫ぶ、という小説がかつて大ヒットしましたが、映画の舞台は本土最南端。鹿児島県の南の端っこです。僕の出身地は本州最南端の和歌山県串本町潮岬。何だか縁を感じます。ネタではなく、僕が子どもころ、近所に「地の涯(はて)」という喫茶店がありました。本当に地の果てみたいなところです(笑)。

  土地を耕して暮らす地の人に、新しい風を運ぶ人が加われば、世界の隅っこはもっと豊かになるかもしれない。それは協力隊という仕組みでなくてもいいと思います。そして、風は気に入ればずっととどまればいいし、各地を回ってまた定期的に訪れてもいい。日本の人口自体は減っているのだから、どこかに移住者が増えれば、どこかは減る。そうした取り合いでなく、関係人口という形でいろいろな地域と交わる人が増えればいいなと思います。

 地方の人だって都市の関係人口になれます。たまに都市に出て行って文化に触れたり、レジャーを楽しんだりはもちろん、もっと違うアクションだってできるはず。地方空港や高速道路など、都会から「いらないもの」と思われがちな交通インフラが整ってきたことで、新しい可能性が引き出せるかもしれません。

地方でつくる映画

 映画の撮影が来ると地域が盛り上がりますよね。フィルムコミッションが各地にあるのもうなずけます。この映画は小規模で、撮影期間も2週間程度とのことですが、きっと地元は大盛り上がりだったでしょう。人口6千人程度の町で、エキストラが一度に500人も参加したというエピソードからもそれはうかがえます。

 主演の工藤成珠さんは田辺市出身。そして、工藤さんの父親は僕も仕事でお世話になっている人です。今はまだ知名度が高いとは言えないですが、俳優としてテレビやネットフリックスのドラマ作品に出たいという工藤さん。これからの活躍が楽しみです。朝ドラにも出演し、紅白の司会まで務めた浜辺美波さんは石川県の出身で、北国新聞のCMにも出ているそうです。工藤さんも田辺市、和歌山を代表するような俳優になってほしいし、応援しています。

 ちなみに、和歌山県出身の俳優としては(地域は離れていますが)、溝端淳平さんや岡本玲さんらがいます。

 

編集後記

 地方が舞台の自主制作映画ということで、正直「大丈夫かな」という心配もありましたが、しっかりした作品で映画として十分面白いです。僕が来場899人目だったので、まだまだ少ない。地方で公開しているうち、口コミで広がればいいですね。地方の問題は全国共通。各地の地方映画祭で上映するのもありだと思います。田辺市にも弁慶映画祭があるので、そこから全国への扉を開いてもらいたいです。

 

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