親子のあるある、父親目線で

映画

ステップ(2020年、日本)

 健一はカレンダーに“再出発”と書き込んだ。始まったのは、2歳半になる娘・美紀の子育てと仕事の両立の生活だ。結婚3年目、30歳という若さで妻を亡くした健一はトップセールスマンのプライドも捨て、時短勤務が許される部署へ異動。何もかも予定外の、うまくいかないことだらけの毎日に揉まれていた。そんな姿を見て、義理の父母が娘を引き取ろうかと提案してくれたが、男手一つで育てることを決める。妻と夢見た幸せな家庭を、きっと天国から見ていてくれる彼女と一緒に作っていきたいと心に誓い、前に進み始めるのだ。

公式サイトより

家族物、ヒューマンドラマ好きにお薦め。親子のあるあるが詰まった誰にとっても身近な物語。父の日に家族で観てください。

お薦め度  

ポイント

・シングルファーザー

・二刀流

・生と死と

シングルファーザー

 これだけ離婚が多い世の中でも、シングルファーザーは少数派。作中では妻との死別だが、主人公の健一(山田孝之)は1人で子育てすることになる。小学校の担任も「シングルマザーはこれまでもいたけれど、ファーザーは初めてのケースで」と戸惑う。

 実は僕は子ども時代に一時的に疑似父子家庭を体験している。母が心臓の病気で長期入院したためだ。小学校の入学式も病院だったので、父に連れられて登校した。その入学式で遅刻。式の開始を遅らせる事態になった。後に同級生の母親に聞いたところ「母親がいないから大変なんだ」と教室はしんみりしていたという。真相は単に父が入学式の時間を勘違いしていただけなのだが、「ママ友」みたいなつながりがないため遅刻につながった。

 健一も基本ワンオペだが、周囲には親切な人が多い。義理の父母、義兄弟、会社の上司、保育園の先生。数々の障害を乗り越えていく父と娘を周囲が支える。両親の実家が近かったし、友達の家も親切な人が多く、遊びに行った先で昼食や夕食をごちそうになることもあった。映画では娘が自ら保育園に行こうとしたり、小学生になると積極的に家事を担ったり健気だ。優等生すぎると思う人もいるかもしれないが、実際僕も小さいながらも家事をしたり、妹の世話をしたりしていた。そういう環境になると、子どもも自然としっかりモードになるのである。その辺のリアルだと感じた。

二刀流

 健一は子育てと仕事の二刀流。仕事を早く切り上げる時、同僚に申し訳なさそうにする。ギリギリまで仕事して、保育所の迎えに遅れたり、「もっと子供との時間をとってあげて」と指摘されたり。奮闘しても「もう限界」の声がもれる。「それって、男性だから物語になるの?働く母親には当たり前」という意見もあるかもしれない。でも、子育てのあるあるにはうなずいてしまうはず。子どものいない人、結婚してない人でも。これって、家庭のあるあるだと思う場面がきっとある。

 無事に子育てできたのには、比較的余裕のある義理の両親、子どものない義兄の夫婦など周囲のサポートもあった。そうした点の描き方もいい。あまりにいい人ばかり、という気もするが、みんなで子どもを育てるんだという思いが伝わる。

生と死

 生だけでない。死を描くのもうまい。冒頭から主人公の妻が亡くなる。カレンダーに予定を書き込もうとした最中、壁に残された赤い線が突然の死と、途切れた未来を描く。でも、その先は途切れていない。新しいカレンダーに書き込まれる予定、娘がたどる線の先。物語は前へとステップしていく。

物語の後半には義父が倒れる。死はそう遠くない。そんな姿を見せたくないと思う義父と、会いたいの願う孫や家族。今まで家族を支えてくれた義父が、主人公の新しい妻に今後を託す。いくつもある新しい一歩が、まさにステップの題にふさわしい。

 

編集後記

  なぜか、家族ものが好きだ。自分に欠けている何かを感じるからだろうか。子役の成長に親気分が湧くからだろうか。いわゆる「泣かせる」映画だが、押しつけがましくない。幅広い世代、家族、家族になりたい人と楽しめる。原作は重松清。この人の「きみの友だち」は絶品ですよ。

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