忘れる読書(落合陽一)
著者はメディアアーティスト(?)、筑波大学准教授、ベンチャー企業代表など多彩に活躍しています。読書術の多くは、いかに内容を忘れず吸収できるかに重点を置いていますが、この本が勧めるのは内容を血肉するための「忘れる読書」。デジタル時代に必要なのは読書。古典から哲学、経済書、理工書、文学に至るまで、著者の思想を形作った書籍も紹介しています。
この本を読んでも著者が何者なのか(存在は知っているけれど)はまだよくわかっていません(笑)。ただ、この読書術はさまざまな場面で役立つはず。勉強でもスポーツでも、やり方を間違っていると成長速度が遅い。読書なんか人それぞれでいいですが、そういわずちょっと手に取ってみる価値はあります。
お薦め度
持続可能な教養
先行きの分からない時代を生きるために必要なのは「持続可能な教養」としています。持続可能な教養とは、物事を抽象化する思考を鍛えること。抽象化とは「物事の本質を定義する」という意味です。物事をゼロベースから考え、分析する思考力です。抽象化する思考を鍛えるには読書が向いていると著者は強調しています。
ただし、単純にさまざまなジャンルを多読すれば教養が身につくかといえばそうでもないとも指摘。知識のストック量は大いにこしたことはありませんが、検索すれば瞬時に広くを情報を得られる時代。イノベーションを起こすのに必要なのは「点と点をつなげる」思考です。ウーバーはもともと、タクシーに乗りたいのに車が見つからないユーザーと、一般の乗用車の空席という二つの点を結びつけることで誕生しました。「気づく」能力がある人こそ教養のある人だというのです。
全部覚えなくていい
この本が一番変わっているのは「忘れる」をタイトルにしている点です。というのも世の中「本読んでもなかなか知識が身につかない」という悩みが多いからです。読書した内容を逐一頭に入れ込んでいかないと思い込み、そうしたノウハウ本もあふれています。
著者はこれからの時代、クリエイティブであるための知的技術は、読後に自分の中に残った知識や考えをざっくりと頭に入れ「フックがかかった状態」と指摘しています。何となくリンクが付いているような状態で、頭の片隅に残しておけば、いずれ頭の中を「検索」すれば分かるからです。僕も毎朝、大手4紙を読んで、気になった記事は切り抜いていますが、全部覚えているわけではありません。脳内の「引き出し」にしまって、必要な時にすぐに出せるようにしています。これが「フック」なのかもしれません。
著者は読書ノートやメモも取らないそうです。本全体の10%ぐらいが頭に残るくらいでちょうどいいというのです。読んだ内容を細かく思い出せるうちは、単に著者の主張を頭の中でリピートしているだけで、自分の頭の中に「入った」とは言えないと。なるほどと思わされます。覚えなくていい、忘れる読書は決して楽ではないのです。
マンガも教養
マンガも教養だと思っている。僕が言っても説得力ありませんが、大学の先生がいうとなるほど思ってもらえるかもしれません。マンガの良さについて著者は「何につながるか分からないけれど、それが回り回って横に斜めに思考をジャンプさせる弾みをつけてくれる」ところだと言います。
紹介しているマンガは文学的な作品ではまったくありません。徳弘正也さんのファンだといいます。「ジャングルの王者たーちゃん」などで知られる漫画家ですが、文科省なんかは絶対に推薦しそうにない作風です。実は「ワンピース」の作者の師匠らしいですが。
マンガを読む場合、ざっくり全体をとらえ、いろいろな思考のフックをかけながら読むそうです。そうすると「ドラゴンボール」は単に敵と戦う話ではなく、相手の「佇まい」からセンスや能力の良しあしを見抜く観察眼の物語という文脈が見えてくると。学生には「ヤムチャ」になるとアドバイスするそうです。ヤムチャはとにかく負けるキャラクターで、相手の戦闘能力を見誤ってしまうのです。
専門書だろがマンガだろうが、事の本質をつかまえながら読むくせを付けておくと思考の引き出しが増えると思います。
おまけ
ところで落合陽一さんが何者でどんな功績があるのかはいまいち分かっていません。テレビにも出ているし、かなり有名なのでしょうが。そして、父親は落合信彦。僕が学生時代によく読んでいた国際ジャーナリスト(?)です。この人も実は何者かよく分かっていません。テレビCMで有名になり、僕もCMがきっかけで読むようになりました。当時は東西冷戦時代で、ネタはいろいろあったんでしょうね。大学は政治経済学部でしたが、落合信彦と沈黙の艦隊の影響はかなり受けているはずです(笑)