恋の賞味期限を知りたい方へ|花束みたいな恋をした

処方

花束みたいな恋をした(2021年、日本映画)

東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った 、麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた2人は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。

公式サイトより

ラブストーリーと言えばラブストーリーだが、王道からは少し外れる。会話の雰囲気がとにかくいい。好き嫌いの分かれる作品。

お薦め度 

効能・注意

・ラブストーリー?

・サブカル論

・結婚論

ラブストーリーなのか

 映画公式ホームページでは共感度100%のラブストーリーのキャッチコピーが。でも、それを見て、映画を観た人はイメージと違ったのではないでしょうか。カップルで見に行って、盛り上がる感じだとは思えません。というか、あまり推奨しません。あらすじだけを語ると、たいして面白くない。偶然の出会いから盛り上がって、カップルが成立し、やがてずれていく。なぜ、これが話題になっているのだろうというぐらい平凡です。でも、会話、状況の描き方が秀逸。友人や周辺の状況との対比などから、2人の物語が世の中で繰り返されている構造であることも見えてきます。それもそのはずで、脚本は多くの連続ドラマを手掛けてきた坂元裕二。彼の脚本が楽しめる人は、見る価値があると思います。坂元脚本で「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」というドラマがありますが、こちらも一般的なラブストーリーではないですが、刺さる人には刺さります。

サブカル論

 作品中では映画や小説、音楽、テレビ番組などが効果的に使われています。その中で、象徴的?なのがこのセリフ。「ワンオク、聴けます」。「ワンオクのチケットを取ってあげる」という申し出に対し、「ワンオク、知っています」でも「好きです」「嫌いです」でもなく、「聴けます」。大衆的な文化と距離を置いている感じがよく出ています。カラオケでも映画談義でも、こうした場面が随所に出てきます。文学好き、映画好きの人なら何となくわかる感覚。大衆受けする作品も読んだり、観たりはするけれど、大抵の場合、評価はそんなに高くならない。まあ、僕はワンオクはすごい才能あふれていると思うし、好きですけどね。狭い世界がいくつもあって、その世界の中では話がすごく通じるけれど、違う世界同士はつながりがほとんどない。ネット社会、SNSがこうした世界観を強化しているような気がします。

結婚論

 麦と絹は5年間一緒に過ごすけれど、結局結婚はせずに別れます。2人しか分からないつながりで楽しい時間を過ごしてきたのに、就職活動を機に、その関係は少しずつ変わっていきます。それでも、もし2人が結婚していたらそれなりに夫婦として共同生活者としてやっていくことはできたと思います。結婚って不思議な制度ですよね。結婚までにいろいろな出会いや別れがあるし、それは結婚したとしても変わらないはず。自身にもパートナーにもいろいろな変化が起こる可能性は高い。なのに、結婚したらそれを維持しようという力が働く結婚はしなくてもいいし、してもいい。結婚したからってずっと維持しなくていいし、維持してもいい。それが当たり前な気がしますが。こうあるべきみたいな圧が令和の世の中にも存在します。

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