絵なんて分からないという方へ|絵を見る技術

処方

絵を見る技術(秋田麻早子)

 歴史的名画をちゃんと見られるようになりたい、と思う人が増えています。絵を好きなように見てもいいと言われても、どこから手をつけていいか分からない。センスに自信がなくても、知識がわずかしかなくてもちゃんと見る方法。それは観察です。美術の訓練を受けた人とそうでない人は、目の動かし方や着眼点が違います歴史的名画という人類の宝の海を航海するための、地図とコンパスが詰まった「絵を見る教科書」。

絵なんて分からないよという方。絵が好きならぜひ読んでみて。自分がどこがいいと思ったか理由が説明できるようになるかも。絵も文学も良さは説明できる(説明しきれない魅力もある)。

お薦め度 

効能・注意

・絵の主役

・目の動き

・名画の構図

絵の主役

 初対面の人に会う時、まず顔を見ます。絵にも「顔」に相当する部分があります。フォーカルポイントです。焦点という意味で、絵の中で最も重要な箇所です。絵の主役で、画家が一番見て欲しいと思っているところです。

 人が瞬時に注目してしまう部分には大きく分けて五つの特徴があります。①画面にそれ一つしかない②顔など見慣れたもの③そこだけ色が違う④他と比べて一番大きい⑤画面のど真ん中にある。こうした条件がそろっていると、フォーカルポイントは見つけやすい。けれど、実際にはもっと分かりにくい仕掛けの絵があります。

 ヒントになるのは光。明暗の落差が激しいところには目が行きます。そして、重要な箇所に向けて目を誘導するリーディングライン。目線や弓矢が指す方向などをたどると、その先にフォーカルポイントがあったりします。

 これを知っているだけで、絵の見方はきっと変わるはずです。

目の動き

 リーディングラインは主役を指し示すだけではありません、画面内の経路も示しています。画家は当然ながら絵を隅々まで見てほしい。できれば絵の中に長くとどまってほしいと思っています。だから、フォーカルポイントの次にどこを見ればいいか、進むべき道筋をちゃんと用意しているのです。美術教育を受けた人は「見方を知っている」というのは、この経路が探せるということなんです。

 四角い画面には、何も描かれていなくても、注意を引く力があるポイントがあります。一番は画面の中心ですが、二番目は角です。画家は絵を隅々まで見てもらうために、画面の角に引っ張られる視線を絵の中央に引き戻すため、角の部分を回避する仕掛けを設けています。

 絵を見慣れていない人は目につくところだけを注目しますが、この経路が分かれば視線の動きが俄然違ってきますし、絵から想像することもいろいろ増えそうです。

名画の構図

 小説や映画に構造があるように、絵には構図があります。有名な絵は細部をあいまいにして隠しても、すぐに「あの絵」だと分かるほど大まかな構成が特徴になっています。基本をおさえておけば、構図が絵の意味を教えてくれます。画面の真ん中が重要なのは分かりますが、上と下では上、左右では右(見る人からすると左)が「格上」の場合が多い。もちろん、例外はありますが。

 ムンクの「叫び」は誰もが一度は目にしたことがあるはず。中央の人物は意外なほど画面の下の方にいます。重い空に圧迫されているようです。さらに奥に2人連れがいることに気がついたでしょうか。この2人連れの足がちょうど主役の頭の高さにあって、閉そく感や疎外感を倍増させています。主役が画面の下にあることが、強烈な不安や孤独の表現にぴったりなのです。

 どの絵を好きになり、どう見ようと、どう感じようと自由です。でも、その絵のどこに惹かれ、どこに何を感じているのかが分かれば、自分の価値観を把握する糸口になります。絵について話せば他者を知るきっかけにもなるでしょう。本と同様に絵の見方にもきっと人柄は表れます。

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