デザインと革新(太刀川英輔)
こんな内容
ソーシャルデザイン(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動しているデザイナー、太刀川英輔氏が「デザイナーになる前の僕が本当に読みたかった人生の近道になるような本をつくった」という未来をつくるための50の思考。太刀川氏は2006年に慶応大学大学院在学中にデザインファームNOSIGNER(ノザイナー)を創業。建築、グラフィック、プロダクトなどデザインへの深い見識を生かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略は、世界で評価されている。
デザイナーとは
デザイナーと聞いて、どんな人を思い浮かべますか?僕は実際に出会うまで、絵が上手な人、物づくりが得意な人ぐらいのイメージしかありませんでした。それもデザインの一部ですが、デザインの幅はもっと広く、大きいです。プロジェクトをつくったり、まちづくりをしたり。新聞記者もデザインに近い仕事をしているかもしれません。なので、世界的に活躍しているデザイナーさんの思考はとても参考になります。
分解すれば理解できる
どんな難しい技術も小さくて簡単な技術の集積。だから、誰でも一つ一つの小さな技術を順番に覚えていけさえすれば、大抵のことはできるようになります。けれど、途中で上るべき階段が見えなくなり、まるで巨大な解決不可能な壁に見えてしまい、諦めてしまう人がほとんど。
太刀川氏の助言は「分からないことに出会ったら、まずは要素を分解して抜かした階段はなかったか。順を追って理解しようとしてみてください」。「分かる」を「分ける」という漢字で表すのは、そういう意味なのです。これ、すごく分かりやすくて、納得できます。
要素へと分解するコツは「なぜそうでなければならないのか」を問いかけること。物事には理由がありますが、感覚で判断して、本当の意味を理解していないことがあります。
例えば、イスはなぜ必要でしょうか。体重を分散して楽になりたいからです。そのことに気付いたら、どんなイスをデザインするか見えてきます。
いい問いを生み出す
日本の教育では、幼稚園から社会に出るまでずっと必ず答えのある問題を問われ続けます。「上手に答えられる子=頭がいい子」として認定されます。さて、本当にそうなのでしょうか。太刀川氏は疑問を投げかけます。
「思考にとっては、良い答えより良い問いを見つけようとすることの方が、はるかに大切」。そう考えると日本の教育がどれだけ残念な手法を取ってしまっているか、よく分かります。実際、社会に出れば正解のない問いがあふれています。
伝わるように伝える
「あいつは全然分かっていない」。よく聞くし、よくいうセリフかもしれません。「伝える」と「伝わる」の大きな違いは、意識が主体的であるか客体的であるか。相手の立場で聞いている自分を想像しながら話をすることが、「伝わる」語り方のポイントです。
太刀川氏の助言。「デザインをつくる時、言語として理解すると想像しやすくなる」。自分がつくりたいデザインと、相手が必要とするデザインは違うものなので、両方を往復しながらつくっていくと、良いデザインになります。社会に広まるデザインをつくりたい場合も同じこと。言うは易く行うは難し。肝に銘じたいです。