政治に関心のない方へ|新聞記者

処方

新聞記者(2022年、日本)

効能・注意

・政治、社会に関心を持つきっかけにはなるかも。

・組織と個人、社会と個人について考えさせられます。

・あくまでドラマなので単純化はされています。

こんな話

 報道に強い信念を持つ新聞記者が、政府の汚職疑惑を巡る深い闇に切り込む。首相夫人が栄新学園の土地売買に関与していたと情報が入り、取材を始めるが、全面否定した首相の国会答弁に合わせて、官僚たちは資料の改ざんを命じられる。巨大な権力に圧力をかけられる新聞記者と、何が国のためになるのか苦悩する官僚あるきっかけで社会に関心が芽生える若者。一つの事件を巡る社会派群像劇ドラマ。

モデルの案件そっくり

 栄新学園のモデルは明らかに森友学園。近畿財務局が中部になるなど、それなりのモデルチェンジはありますが、モチーフにそっくりの展開で物語が展開します。政治、社会問題に向き合った日本では珍しいドラマ。ただし、地上波ではなく配信のネットフリックスのドラマです。そうでないとスポンサー付きにくいんでしょうね。

 映画版が2019年に上映されていて、監督はどちらも同じ。ドラマ版の方が登場人物が多く、多面的に描かれています。主演の米倉涼子はあまり好きな俳優ではありませんが、今回は抑え気味の演技で、新境地を開こうという意気込みは感じました。ずいぶん都合のいい設定は多々見られましたが、そこはフィクションということで。

組織と個人

 ドラマの軸は政権対マスコミ、マスコミ対官僚という図式だけではありません。新聞記者も官僚も組織との関係性に苦悩する姿が描かれています。「組織は絶対なのか」「組織に属している以上は、組織に従うべきか」。権力の圧力がかかる組織の中で、記事が止められてしまう新聞記者。汚職の発端に関わった官僚は、正そうとしても組織の壁に阻まれてしまいます。改ざんを命じられた官僚も従うのが国のためなのか、拒絶してこそ国のためなのか岐路に立たされ、自殺者さえ出てしまいます。

 僕自身は公務員になったことはないし、大会社に就職したこともないので、仕事については組織と個人はほとんど意識していません。仕事と会社が完全ではないにしろ、意識上は分離されています。仕事は自分のためで、会社のためにやっているわけではないという感じです。でも、公務員はそうはいかない難しさはあるでしょうね。

 個人と組織、どっちを優先するかといえば、明確に個人です。組織がおかしいと思ったら従わずに是正を求めるし、できないんだったらそんな組織に所属する気もありません。会社なら経営者には経営者の視点がありますが、従業員には従業員の視点があります。経営者のことを考えるのはいいですが、組織に都合のいい方にひよるのは、自身や仲間、大げさにいえば社会にも損失を与えるかもしれません。ただ、組織があってこその利点もあるわけで、日本が嫌だから外国へ出ていくとか、そう簡単にはいかないですよね。

興味を持つきっかけに

 映画版との大きな違いが、新聞配達のアルバイトをしている就活生の存在。新聞を配っているのに、全然新聞を読んでいなくて、社会に関心がありません。ところが、自殺に追い込まれた官僚はおじさんで、一気に事件を見る目が変わります。ニュースを見て、社会について考えながら、就活も進めていく。これまで政治、社会に関心のなかった人も共感しやすいパートだと思います。この若者が示しているのはもう一つ。市民の無関心が政治の腐敗を生み出すということ。就活生の若者は新聞社に就職し、コロナ禍により就職内定を取り消された友人を取材します。社会の隅で起きたできごとも「なかったことにはしない」。そういったメッセージも良かったです。

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