うみのハナ(すけの あずさ)
こんな話
ふうちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんは、海辺の町で床屋さんをしています。ふうちゃんはおじいちゃんのハサミの音と、床屋さん独特の匂いが大好き。夏休みに訪れたふうちゃんは、おじいちゃんに髪を切ってもらった後、おばあちゃんに大事な人がハナになって会いに来るといわれる「ハナフリ」のことを教えてもらいます。その後、おじいちゃんが突然亡くなり、お彼岸に2人は「ハナフリ」を見ようと、坂を登っていくー。ほのぼのしたお話と、水彩画の透明感のある絵が魅力。地元作家による絵本。
おじいちゃんの床屋さん
僕も子供の頃、同級生のおじいちゃんがやっている床屋さんに行っていました。なので、物語に出てくる床屋さんは、とても懐かしさを感じます。チョキチョキというより、マルコメ味噌の少年(最近の人は知らないか)みたいな坊主頭だったので、バリカンでしたが。ふうちゃんが好きな床屋独特の匂い、僕は苦手で、最初の頃はびびっていたのを思い出します。
おじいちゃんは亡くなり、長年店は閉まっていましたが、孫が再オープンしました。地元で愛されていた店を引き継ぐふうちゃんと重なって、ちょっとうるってきてしまいました。
ハナフリ
ハナフリ、見たことも、聞いたこともありませんでした。大阪南部から和歌山北部にかけて、沿岸部では今も彼岸の中日に夕日から花が降るように見える現象「ハナフリ」(ハナフルやハナチルとも呼ばれるそうです)を眺める風習が残っている地域があるそうです。なぜ、彼岸なのか。「だいじなひとが、ハナになってあいにくる。そんなんいうひともおるわ」とおばあちゃん。僕自身は信仰心もないし、墓参りなんかも滅多に行きませんが、暮らしに溶け込んだ風習の美しさには惹かれます。
舞台は雑賀崎
物語の舞台は和歌山市の雑賀崎。今、日本のアマルフィと呼ばれ注目されています。アマルフィとはイタリアの世界的な観光地で、世界遺産にも登録されています。斜面に張り付くように並ぶ住宅が本家アマルフィに似ていることからそう呼ばれるようになりました。コロナ禍で海外旅行もままならない中、身近に海外気分を味わえると写真愛好家に人気です。アマルフィには行ったことがないので、どれほど似ているか分かりませんが、海の景観と港町の匂いを味わっていただきたいです。町を見上げるのも、丘の上から港を見渡すのもお薦めです。絵本の表紙から優しい雰囲気が伝わります。