拳児(原作・松田隆智、作画・藤原芳秀)
こんな話
中国拳法「八極拳」を学ぶ少年、拳児がさまざまな人に出会いながら、中国で行方不明になっている師匠でもある祖父を探しに行く物語。中国拳法をメインに、日本古来の柔術やボクシングにも挑戦。フィクションだが、原作者の武術遍歴をもとにしたリアルな武術マンガ。実在の人物も多数登場する。
大東流合気柔術
合気といえば、植芝盛平が開祖の合気道が真っ先に思い浮かびますが、作中では大東流合気柔術の達人が登場します。合気道の源流ともされる武術で、植芝も大東流の創始者・武田惣角に学んだ時期があったようです。
武道は本来、精神と肉体の関係、心と気と力を同時に鍛えるものだそうです。ところが、西洋科学は筋肉を鍛えることによるパワーとスピードのみを重視する。だから、若さが消えると強さも消える。合気の達人は80歳を超えてもなお強い存在として描かれています。僕は武道や格闘技にはそれほど興味がありませんが、筋力に頼らない強さがあるなら見てみたいです。
ボクシング
中国拳法や合気道など、一般の人は触れる機会がほとんどありません。主人公は作中の初期にボクシングにも挑戦します。ボクシングは武術ではありませんが、拳を用いて実際に打ち合いながら研究され続けてきました。空手や拳法のように大きな動作がないままパンチを繰り出します。パンチの防御テクニックも豊富です。
ボクサーといえば、僕らの世代ではマイク・タイソンが印象に残っています。作中でも言及されますが、彼が百戦錬磨のボクサーに連戦連勝できた理由。それはパンチ力だけでなく、突進力です。相手が技を使う前に倒してしまうから、どんなテクニシャンでも技がないのと同じになってしまう。その説明が腑に落ちました。
一つの技を磨く
バトル漫画の世界ではいろんな技が登場します。技の多さが力の強さにもなっています。作中に出てくる八極拳の祖、李書文はとんだり、はねたりする拳法を否定。一撃必殺の拳法を極めます。
一方で、作中では一つのことを懸命にやることだけが唯一絶対ではないとの教えもあります。「世の中は広い。価値あるものはたった一つだけじゃない」。主人公もこうした考えのもと、さまざまな拳法を学んで成長していきます。