BASARA(田村由美)
こんな話
高度な文明が滅びた後、戦国時代のような文明に戻った日本は300年にわたって王の一族に支配されてきた。山陽地方に生まれた双子の兄タタラと妹の更紗(さらさ)、タタラは圧政から人民を救う「運命の子」と予言されるが、そのせいで王の軍勢に襲われ殺されてしまう。人々の希望を守るため、男装した更紗がタタラを名乗って、復讐に立ち上がる。アクション、恋愛、人生論など盛り込んだ架空歴史マンガ。自由とは、政治とは、贖罪とは何かを強烈に問いかけてきます。
憎しみは続かない
贖罪が一つのテーマになっています。兄の復讐のため立ち上がったヒロインの更紗は、敵である「赤の王」と互いに素性を知らないまま恋に落ち、すれ違いを重ねながら恋を育んでいきます。敵と許しあえるのか。他の登場人物もこうした選択が迫られます。
子どもの頃、奴隷だった過去を持つ揚羽のセリフ「憎しみはね、続かないんですよ。生きて、歩いて、人に会い、誰かを愛せば消えてしまうんですよ」
戦いの中でもさまざまな葛藤があります。「自分がしたことの結果を見るのは怖いだろう。だが、しっかり見ることだ。片側だけが悪い戦争はない」「命より大切なものもあるだろう。それでも、命も一番大切だと言ってほしい。こんな時代だから」
今の時代に響く名言が随所にちりばめられています。
熊野も舞台に
作者は今期のドラマで一番の話題作「ミステリと言う勿れ」の原作者、田村由美さん。実は和歌山県出身だそうです。BASARAでは僕の地元の熊野が重要な場所として描かれます。捕鯨、熊野の信仰、めはり寿司などのグルメ、日本一の那智の滝や奇岩・橋杭岩といった名勝、熊野を代表する文化が続々と登場します。BASARAで熊野に触れたことがきっかけで移住してきた人もいるほど。物語の舞台は架空の未来ですが、その未来に熊野の文化が残っていることも地元としては感激ものです。
魅力的なキャラクターが大渋滞
実は「運命の子」だったヒロインの更紗、敵にして恋の相手、さまざまな改革を打ち出す赤の王「朱里」をはじめ、魅力的なキャラクターが続々と登場します。熊野を代表するのは大神官の跡取り息子・那智、雑賀衆元締めの息子・聖のコンビ。おっちょこちょいだけど、豪快でサバイバル能力が高い那智、冷静で頭の切れる聖。真逆の二人の掛け合いは漫才のようで、主人公陣営のムードメーカーともなっています。
那智が瀕死の重傷を負った緊迫した場面。聖が「死ぬときは一緒やで」と語りかけると、「嫌や。1人で死んで」と返事される。それに対して「なんでやねん」と涙ぐみながら突っ込む。この関係が大好きです。