帝国を知ろう
ラインハルト・フォン・ローエングラム
こんな人
物語の主人公。銀河帝国(ゴールデンバウム朝)の打倒、銀河の統一を志す青年将校。下級貴族の出ながら数々の武功を挙げて、異例の出世をしていく。野望の出発点は最愛の姉アンネローゼを奪った皇帝への反感。これが500年近くも続いた王朝を揺るがすことになる。「戦争の天才」「常勝の英雄」にして、政治手腕にも優れている。
アレキサンダー大王やナポレオンなど、世界史に登場する英雄の要素をぎっしり詰め込んだ人物。もともと、脇役が好きな僕は、最初読んだときはそれほど、好きではありませんでした。しかし、完璧に見えて、実はもろいところ、世間に疎いところもあり、天才の部分ではなく、みんなと同じように苦悩する姿に魅力を感じるようになってきました。天才すぎて、ミスもちょくちょくしていますしね。部下の評が特性を表しています。
「望遠鏡が顕微鏡を兼ねないからといって、問題ではない」。
第一、姉を取り戻すために王朝をぶっ潰すという行動に出るのがすごい。早く計画を行動に移すため、軍の幼年学校に入り、軍人の道を進みます。そこで、「戦争の天才」の本領を発揮するのですが、「姉が皇帝のお気に入りだからだろ」と色眼鏡で見られてしまいます。異例の出世にはその側面も否定できませんが、軍事的な成果を挙げているのだから出世するのは当然。そして、多くの帝国人が見落としていることがありました。皇帝がひいきしようが、敵国の同盟には何の関係もない。手加減してくれるわけじゃない。天才は王朝をひっくり返し、同盟も飲み込んでいきます。
セリフには苛烈なものも多いですが、前向きで理にかなった名言もあります。例えば「去年のワインのまずさをなげくより、今年植えるブドウの種について研究しよう。その方が効率的だ」「名将というのは退くべき時機と逃げる方法をわきまえた者のみに与えられる呼称だ。進むことと闘うことしか知らぬ猛獣は、猟師の引き立て役にしかならない」「体制に対する民衆の信頼を得るには、二つものがあればよい。公平な裁判と、同じく公平な税制度。ただそれだけだ」。
ラインハルトらしすぎて、日常では使えないセリフも多いです。「平和とは無能が最大の悪徳とされないような幸福な時代を指していうのだ」。ラインハルトの目に今の日本は平和に見えるでしょうか。「民主政治とは、人民が自由意志によって自分たち自身の制度と精神をおとしめる政体のことか」と言ってるくらいですから、答えは見えてますね。
ジークフリード・キルヒアイス
こんな人
ラインハルトの親友であり側近。全ての面において非凡な才能を発揮し、その上、作中屈指の人格者でもある。ラインハルトの半身とも称されるが、物語の序盤で死亡、退場する。それでもなお、ラインハルトや他の登場人物に影響を与え続ける。アンネローゼを思い続けていた赤毛の青年将校。
隣にラインハルトの一家が引っ越してきたことで、ラインハルト、アンネローゼとの交流が始まります。常に2人を献身的に支え続ける存在で、作中でも屈指の人気キャラです。全10巻中、2巻で退場してしまうのですが、「そこで銀英伝は終わった」というファンもいるほどです。僕は違って、彼の死で物語の深みは増したと思います。ただ、あまりにも早すぎるとは思いましたが。
彼は当初、ラインハルトの副官だったため表舞台に立つ機会が少なく、周囲からはその実力を疑問視されていました。ラインハルトは親友というだけで、無能な者を側近にするか、どうか。厳しい目が注がれる中、指揮官になるとラインハルトと同等レベルの能力を発揮。№2であることを認めさせます。
ただ、ある事件でラインハルトと衝突します。敵対していた貴族連合が、自身の領地に核攻撃を仕掛けます。ラインハルトは事前に情報をキャッチし、一度は阻止しようとするのですが「貴族が暴挙を起こす方が、民衆の心は離れ、戦争は早く終結する。トータルとして、犠牲者は少なくなる」との参謀の意見を入れて、核攻撃を見逃しました。これを知ったキルヒアイスは言います。「貴族たちは、やってはならないことをやりましたが、ラインハルトさまは、なすべきことをなさらなかったのです。どちらの罪が大きいでしょうか」。この事件は後々までラインハルトに大きな影を落とします。
苛烈なラインハルトの短所を補って余るほど、人格者ぶりは際だっています。好きなエピソードが、敵国である同盟の少年に掛けた言葉。「頑張ってくださいと言える立場ではありませんが、どうか元気でいてください」。正確にはどうだったか覚えていませんが、こういう内容でした。同盟としては、キルヒアイスにこてんぱんにやられているわけで、憎き敵のはずなのですが、実際に会ってみると好感を持ってしまいます。
アンネローゼから「弟と仲良くしてやって」と言われたことが彼の運命を決定付けたと言っていい。こうしてみると、アンネローゼの存在が帝国の運命を動かしたんですね。(子どもでなくても阻止するのは無理でしたが)アンネローゼを皇帝に掠われた少年時代を振り返り「人はなぜ、自分にとってもっとも必要なとき、それにふさわしい年齢でいることができないのだろう」と自問します。これって、生活の中で感じることありませんか。今の能力で20代に戻れたらとか。架空の未来史であっても、こういう場面が身近な問題とリンクして、親近感を生んでいます。
その他の将校
帝国の双璧と呼ばれるミッターマイヤーとロイエンタール、冷徹な参謀オーベルシュタイン、猛将ビッテンフェルト、鉄壁ミュラーなどなど、魅力的なキャラクターまだまだいるのですが、2人を紹介しただけで通常より文字数を取ってしまいました。またの機会に。