伝統はすごいのか?/国宝

映画

国宝(2025年、日本)

 後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。

この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、
上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。

そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。

正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく…。(映画公式サイトより)

熊野堂
熊野堂

今年を代表する映画になるでしょう。圧巻の一代記です。歌舞伎なんて興味がなかった人もこれを観れば、生で観たくなるはず。男性から見ても美しすぎる2人の俳優を見るだけでも価値があります。

お薦め度 

ポイント

・才能は伝統を突き破れるか

・身体能力

・女性の描き方

・人間国宝

才能は伝統を突き破れるか

 割と初めの段階で、歌舞伎の興行を仕切っている側の若手幹部、竹野が「世襲だろ」みたいな発言をして、歌舞伎をあまり高く評価しません。というか、私も含め多くの一般人が感じている言葉を代弁する役割なのでしょう。そこから、歌舞伎や主人公と付き合っていくうちに、考えが変わっていくという王道パターンといえば王道。

 芸の道が世襲というのに違和感を感じるのは当然ではあります。演劇でも音楽でも、2世や3世はいても、それは世襲とは違います。でも、家制度だから保たれている芸があるのもまた事実です。

 才能あふれる主人公は一直線にではないけれど、血筋をも凌駕して、ついに人間国宝にまで上り詰めます。本来ならあり得ないフィクションですが、才能があればそちらを優先するのが道理で、これから世襲だけにこだわらないことで伝統を守っていけるのではとも考えさせられます。

身体能力

 俳優の身体能力はすごい、と思い知らされることが多々あります。アクションシーンはもちろんですが、歌舞伎の舞踊も(本物を知らないから断言できませんが)自分のものにしています。動きの一つひとつが、どのくらいのレベルに達しているのかは分からないけれど、きれいなのは分かります。別のドラマで、落語を演じている俳優を見た時も、引きこまれる話し方で、「かなりレベル高いのでは」と思わされました。

 今作の主人公たちもそうなのですが、毎回すごみを感じさせてくれるのが今回人間国宝役で出演している田中泯さん。ダンサーで、伝統とは遠い道を歩いていた人ですが、この動きがとにかくきれい。俳優デビューは遅いですが、すでに数々の注目作品に出ていて、どれも所作の美しさが目を引きます。姿勢がいいからなのか、間がいいからなのか。ちょっと分からないですが、とにかく見るときれいなんです。彼も血筋を凌駕する才能の持ち主です。

女性の描き方

 かなりクオリティーの高い映画ですが、あえて難点を言えば女性の描き方は浅いかもしれません。その分、力を入れて描いている部分があるわけで、配分の問題なのでしょうが。ただ短い登場シーンでも寺島しのぶさんは、歌舞伎の家系だからこそ感じるものを演じていた気がします。主人公の幼馴染で、ずっと支えていた春江の心の変化とかももっと見せてくれたらよかったのにとは思いますね。春江が高畑充希、他に見上愛森七菜さんなど注目の俳優が出演しています。

人間国宝

 人間国宝に会ったことがあります。狂言の野村万作さん(萬斎さんの父)です。前日か前々日くらに突然上司から「日本の伝統芸能興味あるやろ。万作さんインタビューして」と言われて、驚きました。全然詳しくないし、そもそも狂言すら見たことがありませんでした。それでも、こんな機会はないと思い、つたないながらもインタビューして、まずまず好評でした。インタビュー後に初めて狂言を見るという、プロとしては信じられない状況でしたが、何とか乗り切りました。

 この経験があったので、歌舞伎も観ておかねばと、東京の歌舞伎座で一度鑑賞しました。経験値大事ですね。映画は江戸とは違う上方歌舞伎で、こちらはまだ見たことがないので一度行ってみようか。

編集後記

 期待を裏切らない大作です。ただ、心配だったのが約3時間の上映時間。「トイレに行きたくなったらどうしよう」。席は購入画面で端の方を選んだはずですが、なぜか真ん中の方。これはとても出入りできない。などと不安がよぎりましたが、「もう3時間?」というほど時間を感じさせず、トイレを考える暇もありませんでした。

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