戦争って関係ないと思ってませんか?/私たちの戦争社会学入門

実用書

私たちの戦争社会学入門(野上元)

戦争を知ると、歴史と社会への解像度が激変する!

■「あなたは国のために戦いますか?」と聞かれると、日本人は何と答える?

■民主主義、インターネット、福祉にフェミニズム……どれも戦争と関係アリ!?

■ズバリ、なんで世界平和は無理なの?

■自衛隊って、戦えるの?

■ロシアのウクライナ侵攻の「異様さ」って?

■なぜアメリカは2度も日本に原爆を落とした?
(大和書房ホームページより)

熊野堂
熊野堂

戦争はかつての悲惨な歴史、とだけ考えていては理解は深まらないし、平和についての考えも浅くなる。戦争と社会はこんなにつながっているんだと、さまざまな発見がある入門書。戦後80年にぜひ手に取ってもらいたい。

お薦め度 

ポイント

・「戦える」は正しいか

・非人道兵器とは

・平和とは

・日本はどうする

「戦える」は正しいか

 「あなたは、戦争になったとき、自分の国のために戦いますか」。世界価値観調査にこんな設問があります。「戦う」が一番多い国がどこか分かりますか?アメリカではありません。ベトナムです。なんと90%以上が「戦う」と回答しています。日本は13%で最下位。これは予想通りですね。「はい」「いいえ」どちらの答えがいいという訳ではありません。年配の人が見ると、「嘆かわしい」「愛国心がない」と苦言を言うかもしれませんが、そんなことはないでしょう。

 ただ、この項目はどうでしょう。「わからない」です。日本は38・1%でダントツ1位。考えることを放棄しているのだとしたら、大問題です。でも、もしかしたら、こんなあいまいな設定の問いには正確に答えられないという意味なのかもしれません。でも、どうもそうではないような。

 僕は国のためには戦いませんね。

非人道兵器とは

 世の中にはおかしな言葉がたくさんありますが、その代表格が非人道兵器ですね。人道的な兵器なんてあるのかよ、と突っ込みたくなる。でも、どうも生まれた背景を考えると邪険にもできないかもしれません。

 機関銃(マシンガン)が登場した時、「こんな兵器使ってはダメだろう」と思われていたそうです。従来の戦いは人間の一対一。銃も剣も同じで、人間の腕力の延長でした。連射したり、密集して銃を放てば弾幕となり、誰が誰を殺したかは分からなくなるけれど、「人間がやっている」ということは分かりました。機関銃はこうした個人の戦いを消してしまう。「人間」的ではない兵器と敬遠されたのです。

 それでも、結局使用されていきます。欧州の貴族階級は戦いにも人間性を重んじましたが、アメリカはそんな階級がない。それより効率性を重んじます。南北戦争で使用され、その後幕末の日本にも売り込みをかけます。戦争の主役は機械となり、その対策が進むごとに機械化が進んでいきます。戦車や戦闘機の登場もこの流れです。戦争の主役を人間から奪うのが非人道兵器だったのです。

平和とは

 非人道兵器の代表格と言えば核兵器です。日本は世界唯一の戦争被爆国。80年前から核兵器は破壊力を増し、運搬方法も進化してきました。大型爆撃機は投下後の離脱が危険だし、地上待機中に狙われたら目も当てられない。長距離ミサイルの精度を上げ、秘密の発射サイトから敵国の都市まで届くものが生まれました。そして、原子力潜水艦。世界の海のどこに潜んでいるか分からない艦から核兵器を発射するので防ぐのは困難です。先制攻撃しても報復される。双方が絶滅的な損害を受けるという可能性を共有するがゆえに、核による戦争抑止が可能になる。「戦争の一歩手前の平和」を続けていくことで、それを失いたくないという思いも大きくなり、やはり戦争を抑止する。

 でも、これって平和ですかね。常に世界を壊滅させるような兵器を抱えて、微妙な均衡の上で使わないでいる世界が平和なら、平和という言葉の意味を書き直した方がいいと思います。

日本はどうする

 世界で戦争が続いているのに、日本では戦後80年という言葉が普通に使われていて、どこか戦争は他人ごとです。でも、そんなことはありません。核兵器こそ所有していないし、海外への攻撃力こそ薄いけれど、自衛隊の軍事力は相当なレベルです。米国の基地も国内にあり、米国の傘の下で「平和」を守ってきました。この先もそうでしょうか。それとも、もっと国防費を減らして、暮らしを豊かにすることを優先すべきでしょうか。米国との関係は清算した方がよいでしょうか。米国との関係を清算するなら、独自で身を守るため、国防費を増やすべきなのでしょうか。どれにも一理あって、確実な正解はありません。でも、今こそ議論して、方向を考えるべきときかもしれません。

編集後記

 日本にいると、戦争について語る機会はほとんどありません。戦争の話はひもじさや悲惨な空襲、理不尽な特攻など。それも戦争の一部ですが、それだけで戦争は語れません。国民はだまされて、戦争に突入した、というのも一面的です。日本の戦争観を変えるきっかけに役立つ1冊。僕もいろいろ学びがありました。

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