日本人が知らない世界史の原理(茂木誠、宇山卓栄)
ユダヤとパレスチナ、ロシアとウクライナ、反日の起源、中国共産党、ケルトとアイヌ、アメリカという病・・・。現代の「闇」を、通史で解説!
ユダヤ人の正体、中東危機の淵源/中華帝国の権力構造を言語から読み解く/日本人と日本国の起源/ロシアというやっかいな隣人――ウクライナ戦争の淵源
教科書に書けない国際情勢の深層に迫る(本書帯より)

世界史と日本史の関係は意外と知られていない。おそらく、別々に習って、つながりが分かりにくいからだ。世界史の中で、日本はどうだったか?日本との関係は?など解説があり、分かりやすい。ただ、日本びいきしすぎていて、ちょっと怪しいなという点も多い。その辺を差し引いて楽しんでもらえれば。
お薦め度
黒船ショックは日本だけじゃない
日本にやってきた黒船はアメリカから。日本が明治維新に向かう大きなきっかけになりました。同じころ、クリミア戦争ではイギリスの蒸気船によって、帆船主体だったロシア黒海艦隊がボコボコにされ、ロシアが近代化に進むきっかけになります。英仏連合軍に敗れた清国も近代化に舵を切ります。日本、ロシア、清国がほぼ同時期に黒船ショックで近代化に進んだ。そして、日清戦争、日露戦争でその世界が試された。日清・日露戦争は日本史だけを追っていても出てくるワードですが、その背景を知るには世界史の知識が必要です。そもそも、アメリカが日本を目指したのも、イギリスが清国に入り込み、ロシアも日本、清国を狙う中で新興国として出遅れないようにという意図があった、などと考えると歴史の原理が見えてくるような気がします。
ナポレオンとラインハルト
銀河英雄伝説の主人公ラインハルトは、世界史に登場するさまざまな英雄がモデルになっているようですが、その一人がナポレオン。ナポレオンも家系は高貴ではなく、10歳の時に陸軍幼年学校に入学します。この辺の流れは、ラインハルトと似ています。フランス革命の中で頭角を現し、民衆に支持されて「皇帝」に上り詰めます。
ヨーロッパの皇室はハプスブルク家、ホーエンツォレルン家、ロマノフ家の三家だけ。フランスのルイ14世もイギリスのエリザベス女王もこの系譜ではありません。そのため皇帝ではありません。ナポレオンは圧倒的な武力と民衆の支持で、皇帝となりました。まさにラインハルトのモデルです。
宗教の違い
日本には神道があったのに、飛鳥時代に仏教を受け入れました。ただ、仏教は元々多神教で、同じ多神教の神道とは親和性が高かったようです。日本の仏教指導者は、日本の神々を仏教の教義で再解釈するという手法を取り、仏教を広めていきました。
もし、日本に渡ってきたのが一神教のイスラム教だったら。伊勢神宮をはじめ、全国各地にある神社はなくなっていたかもしれません。無宗教の人が多い日本にいると鈍感になりますが、宗教の問題は結構根が深い。世界史を読み解くと、今世界で起きているさまざまな分断の奥には宗教があるようです。人類はそろそろ宗教から卒業すればいいのに、と思ってしまうけれど、それがまた対立を生んでしまうから難しい。
明治維新と革命
明治維新は日本史上で稀な革命とされていますが、実際は革命ではないというのが本書の考え。実権はなかったとはいえ、日本は天皇が治めていたというのが形式。天皇の下で、徳川からの「政権交代」があったというのが明治維新で、フランス革命のような過激さはありませんでした。「だから日本はダメなんだ」という論者もいますが、比較的平和に近代化を進められた日本の長所とも考えられるのではないでしょうか。分断が進む世界で、この日本らしさが世界史上に大きな意味を持つときが来るかもしれません。
編集後記
歴史は好きですが、世界史はあまり詳しくありません。まあ、日本史もたいして詳しくはないですが。世界の今を知るためにも歴史は必須。宗教の知識も必須ですね。ゲーテを学ぶためにも、聖書関連の本も読んでみようかな。