震災を他人事に思ってませんか?/ある光

マンガ

ある光(阪本繁紀)

佳文は自分が何になりたいのか分からない高校3年生。転校生・宮田訓生導きで忘れかけていた夢を取り戻し、止まっていた時計の針が再び動き始める。そんな中でも2011年3月11日は刻一刻と迫り、佳文たちは運命の渦に飲み込まれていく。(本書より)

熊野堂
熊野堂

東日本大震災を題材にしたちょっと珍しいマンガ。自費出版です。マンガを通じ、震災を疑似体験するとともに、さまざまな取材で得た情報も盛り込まれ、これからの防災を考えるヒントにもなりそう。震災を知らない世代にお薦め。

お薦め度 

ポイント

・東日本大震災を覚えていますか?

・人生の中の震災

・風景の中の震災

・音楽の力

東日本大震災を覚えていますか?

 内閣府のホームページによると

 東日本大震災は、2011年3月11日14時46分頃に発生。三陸沖の宮城県牡鹿半島の東南東130km付近で、深さ約24kmを震源とする地震でした。マグニチュード(M)は、1952年のカムチャッカ地震と同じ9.0。これは、日本国内観測史上最大規模でした。

 被害状況については、まだ行方不明者も多く、全容は把握されていません。緊急災害対策本部資料によると、震災から3ヶ月を超えた6月20日時点で、死者約1万5千人、行方不明者約7千5百人、負傷者約5千4百人

 震度は、宮城県北部の栗原市で最大震度7が観測された他、宮城県、福島県、茨城県、栃木県などでは震度6強を観測。北海道から九州地方にかけて、震度6弱から震度1の揺れが観測されました。
 

 この時、どこで何をしていたか。当時中学生以上ならはっきり覚えているのではないでしょうか。遠く離れた和歌山県内でも揺れは感じたし、津波警報が出て騒然となりました。

 でもあれから14年。すでに震災を知らない人が増えてます。30年前の阪神大震災にいたっては、もっとです。地震はこの先もどこかで必ず起こります。次の震災の被害を最小限に防ぐためにも震災について知ることは重要です。その入り口としてマンガという手法はありかもしれません。

人生の中の震災

 作品は東日本大震災をテーマにしていますが、物語の土台は将来に悩む1人の少女の人生です。誰もが体験するような悩みを持った少女がそれを乗り越えようとしたときに、震災に遭う。震災はいつ、どこで、誰にふりかかるか分からない。医者でもレスキューでも、ボランティアでもない。普通の高校生の視点を通じて震災を描くことで、誰もが被災者になるかもしれないという感覚が伝わるはずです。

 体験者の声を反映したのでしょう。震災の描写、特に避難の様子や避難所生活などはリアルです。

風景の中の震災

 震災は知っている風景を変えます。被災時、復興時。作品でも時の流れが描かれています。

 僕も震災から1年後の被災地を回りました。1年たつと被害の少なかったところは日常が戻っているのですが、がれきなどは撤去されているけれど更地のままの場所、損壊したまま放置された建物があちこちに残っていました。地元の人に案内してもらって取材に行く際も、地元の人でさえ地図感覚がくるってしまう。目印になっていたものがなくなってしまっているからです。

 復興が進むと、また風景は変わります。町によっては大きな防潮堤ができています。海と近いのがまちの良さだったのに、それを遮らざるをえない。もちろん、風景は時代によってこれまで変わってきたけれど、不動のはずだった、もしくは100年程度では変わらないはずだった風景ががらりと変わる

 今、事前復興計画づくりが各地で進められています。被災を想定して、その後のまちづくりの方針を決めておくものです。描いた通りになるか、実際起きてみないと分かりません。でも地域内で方針が一致していれば、復興は早まる。風景を変えるのか、残すのか。どたばたで判断しなくてもよくなる。そうした利点はあると思います。

音楽の力

 タイトルを見た時、小沢健二の歌を思い出しました。読んでみると、まさにそのままだったようで、「ある光」の世界観が反映されているようです。主人公がバンドをやっているので、他にも複数の楽曲が登場しますが、どれも知っている曲ばかり。音楽はさまざまなことを思い出させたり、考えさせたり。時間や空間を簡単に飛び越えて、違う世界にいける装置です。「こころのお守り」になるような楽曲を持っておくといいですね。きっといろいろな場面で助けてくれるはずです。

編集後記

 僕の地元も南海トラフ地震では大きな被害が出ると想定されています。備えはいくらあってもいいと思いますが、それよりまず「最初の被害を最小限に」。これに尽きると思います。どこで被災するかも分からないので、簡単ではないけれど、自宅や勤務先の対策から始めましょう。 

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