傲慢と善良(辻村深月)
婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せ──。2018年本屋大賞『かがみの孤城』の著者が贈る、圧倒的な“恋愛”小説。(朝日新聞出版ホームページより)

これは恋愛小説?くっついたり、離れたりのラブストーリーではなく、現代の社会問題に深く切り込んだ社会派作品でもあり、ヒューマンミステリーでもある。自分の痛いところをぐさりと刺されるかも。婚活真っただ中の人、必読。いややめておいた方がよいか。
お薦め度
婚活経験ありますか?
僕自身は婚活経験はありませんが、婚活市場は活況ですよね。生涯未婚率は高くなり、結婚しない選択肢が社会的にも受け入れられてきたのに、いやだからか。マッチング系のCMは依然多く、自治体も婚活イベントに走り、昔ながらの結婚相談所も健在。僕はいいなと思う人がいれば付き合いたいと思うし、その後どうするか考えるタイプで、「いい相手」を探しにいくという発想はなかったですが、結婚が目的なら相手探しは確かに重要でしょうね。
作中で登場する結婚相談所の話はとてもリアル(それ以外も全てリアルすぎるほどリアルですが)。「結婚相談所は最後の砦ではなく、最初に訪れるべきところ」。相手も見つからないし、アプリでもうまくいかないし、最後に訪れてもすでに不利になっているというわけです。婚活市場では若さは大きな武器。年齢が高くなるほど、不利になるのはなんとなく想像がつきます。
実際、経験者の話(女性)だとアラフォーは相手が本当に限られる。男性の方は自分より年上の人も、20代、30代を希望して、アラフォーというだけで眼中に入らない。もちろん、そんな人がいい人ではないと思うけれど、はじめから選択肢に入っていない不利は否めないとのこと。その点は日常の出会いなら多分そこまで気にならないけれど、条件、数値(勤務先とか年収とか)から入る相談所だと、そうなりやすいんでしょうね。
パートナーは何点?
パートナーに点をつけるなんて、何事だと思いますが、作中でそういうシーンがあり、それが物語を大きく動かすスイッチにもなっています。実際には友人からの「彼女との結婚をどのくらい考えているか?」と質問に対し、架が「70%」と答えるのですが、それがそのまま彼女に対する評価(70点)だというのです。
婚活ではここまで具体的に点数化するかはともかく、相手を評価します。100点、120点みたいなケースはまだいいでしょうが、70点とか80点とかでどうしよう、他にもっと高い点の人がいるのではないか。また採点する時は自己評価も基準になるでしょう。自分はこんだけ学歴あって、ルックスもそこそこで、安定した仕事に勤めている。だからこのくらいの相手は必要だ、みたいなところでしょうか。そこに年齢も加味されるでしょう。20代女性で、✖もないのに、アラフォーのおっさんなんかと付き合えないとか。
相手を評価するは交際相手だけでなく、学校でも職場でも無意識にやっているかもしれません。でも、その時、自分も評価にさらされているかもということを忘れない方がいいでしょう。
二つの視視点
物語は大きく二つの視点に分かれています。男性である架のパートと、女性である真実のパートです。
架のパートでは、消えた真実の謎を追って、真実の過去に迫っていきます。そこで、真実の知らなかった姿にふれるたび、架も自身のことを見つめ直していきます。僕と架は同じ男性ではありますが、境遇はかなり違います。陽の架と陰キャラの僕、周囲の友達も全然違う。でも、話が進むほどに僕の方に近づいてくる感じがあります。陰キャラになっていくという意味ではありませんが。
真実のパートは消えた理由が明らかになった後、始まります。今まで、自分の意志をほとんど発揮しなかった真実がどう変わっていくのか。一人の女性の成長が描かれ、前半のミステリー調とはまた違った展開が楽しめます。こちらも最初はあまり共感できないキャラだった真実がこちらに近づいてきてくれるような感じがあります。
短期間で密度の濃い人生の「旅」を経験した2人がどう変わっていくか。自身に重ねて読んでみると面白いと思います。
結婚する派?しない派?
結婚する派?しない派?ここでも分断が生じています。でも、それってどこまでが自分の意志でしょう。結婚してこそ1人前、子どもを育ててこそ1人前。そういう風潮はいまだに根強くあります。強く結婚を望む人は、本当に自分の意志でしょうか。社会の圧を知らず知らずに受けていないでしょうか。一方、結婚しない派もどうでしょう。結婚や子どもなんてコスパが悪い。一人の自由な時間がほしい。それは本当に自分の意志でしょうか。どちらも自分の意志がどこまでなのか。怪しいところです。
結婚はしても、しなくてもいい。結婚は制度上のもので、便利だからするでもいいし、一緒に住むけれど結婚という制度には乗らないでもいい。恋愛は必須というのも社会の圧で、恋愛だってしても、しなくてもいいんです。するか、しないかなんて個人の自由。それが誰かの妨げになるわけでもない。対立をあおる人たちにどうか乗せられないでください。
編集後記
今まで受けてきた恋愛相談のアドバイス、完全に間違っていた。そんなことを思わせるようなシーンも多々あり、大変勉強になりました。恋愛、婚活は思ったより奥が深い。かつてない恋愛小説で、結婚した人も、どうするか迷っている人も。ぜひご一読をお薦めします。