「光る君へ」ロスの方へ ディープな3選

  • 源氏物語の時代(山本淳子)
  • 謎の平安前期(榎村寛之)
  • 源氏物語(角田光代訳)
熊野堂
熊野堂

異色の大河ドラマ「光る君へ」にはまった人は多いのではないしょうか。アラフィフおじさんの僕も毎回楽しみに観ていました。基本、平安時代のことをほとんど知らないので、ストーリーが新鮮だし、少女マンガ的な展開も懐かしく、新しい。ロスのみなさん。これを機に平安時代を学べる本を読んでみませんか。

実用書

源氏物語の時代(山本淳子)

お薦め度 

「源氏物語」を生んだ一条朝は、紫式部、清少納言、安倍晴明など、おなじみのスターが活躍した時代。藤原道長が権勢をふるった時代とも記憶されているが、一条天皇は傀儡の帝だったわけえなく、「叡哲欣明」と評された賢王であった。「源氏物語」が一条朝に生まれたのは、決して偶然ではない。(朝日新聞社単行本カバーより)

平安時代を知っていますか?

 天皇をつかまえて、何者かは失礼かもしれませんが、一条天皇についてもともと知っていた人は、あまりいないのではないでしょうか。同時代の紫式部や清少納言、藤原道長、安倍晴明らに比べて、明らかに知名度は低い。幼くてして位につき、25年も治世を保ち、わずか32歳で亡くなっています。

 ドラマの登場時は顔はきれいだけれど、いまいちはっきりしないし、頼りない印象でした。ですが各種資料によると、実際の一条天皇は公務に誠実に取り組み、道長などの貴族との協調にも努め、信頼を得ていたそうです。私生活では漢詩を好み、横笛の名手でもありました。この一条天皇の治世があってこそ、枕草子や源氏物語も生まれたのかもしれません。

 そして、ここがドラマ的なのですが、平安当時の天皇としては珍しく、一人の女性を一途に愛する「純愛」派だったとか。でも、純愛の背景には年齢もあったかもしれません。男性の成人式、元服は数えで11歳、満年齢では9歳。元服した月末には定子と結婚しています。定子は14歳でした。いとこ同士の政略結婚ですが、ドラマで描かれるような、純愛だったという説が有力です。

一般的なイメージとドラマのキャラクターが異なるのは藤原道長です。みんな、もっと悪い奴だと思っていませんでしたか。父の威光を最初から受けて貴族社会デビューした道長は、陰謀に手を染める必要もなかった。2人の兄を観察し、違う道を選んだとされています。ただ、さまざまな計算の基に動き、権力を握っていったのは間違いなく、ドラマの道長はかなりクリーンに描かれている印象です。

 一方、道長の兄の息子で、定子の兄である伊周は、ドラマでは散々な描かれようです。バカなボンボン、没落していく姿がリアル過ぎます。しかし、伊周は教養ある貴公子だったようです。親の七光りで若くして異例の出世を遂げます。博識の学者はほかにもいたかもしれませんが、絶妙のタイミングでそれを生かす術を持っていた伊周。一条天皇との仲も良く、歯車が狂わなければもっといい意味で歴史に名を残したかもしれません。

源氏物語は千年以上にわたって読み継がれているわけですが、平安時代からベストセラーだったようです。ドラマでもあった道長の孫、敦成誕生50日を祝う宴のシーン。藤原公任は「このあたりに、若紫さんはお控えかな」と源氏物語のヒロインの名を挙げる。紫式部は「光る君も目につかないのに若紫がいるものですか」と無視する。この何気ないシーンは源氏物語の研究上、とても重要だとされています。なぜなら、当時すでに源氏物語が広く知られ、しかも若紫の登場シーンがこの時すでに世に出ていることがはっきりと分かるからです。これも非常にドラマらしいシーンでしたが(後の創作のような気もしますが)、資料を基に生まれたことが分かります。

実用書

謎の平安前期(榎村寛之)

お薦め度 

平安遷都に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わったが、国家は豊かになった。その富はどこへ行ったのか。奈良時代の宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか。新しく生まれた摂関家とは何か。桓武天皇、在原業平、菅原道真、藤原基経ら個性的なメンバー、斎宮女御、中宮定子、紫式部ら綺羅星の如き女性が織りなすドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期の全てが明かされる。(中公新書カバーより)

それでも平安時代を知っていますか?

 タイムスリップしたい時代はいつですか?と聞かれたらなんと答えますか? さまざまなアンケートで、人気が高いのが江戸時代、そして平安時代です。江戸時代は時代劇に登場してなじみがありますし、平和で現代にも通じるような文化が生まれていて豊かなイメージがあるからでしょう。平安時代も平和で、貴族たちによる豪華絢爛の時代というイメージが根強そうです。十二単や陰陽師など映画やマンガの題材にもなりやすい要素がそろっています。

 でも、平安時代は実は400年近くあります。今ほど時代の変化が速くないにしても、400年同じような時代が続くとは考えにくいですよね。どうも私たちのイメージする平安時代は後半の200年で、前半が抜け落ちているようです。この本では前半の200年を解説することで、後半の200年が育った理由を解き明かしていきます。

 平安時代が好きな人は優雅な貴族が華やかな恋愛を繰り広げる清少納言や紫式部など女性が活躍した時代ー。そんなイメージが強いのではないだろうか。一方で、僕なんかは、なよっとした貴族がやらなくてもいい儀式に追われ、恋愛や和歌に夢中で、政治をおろそかにし、やがて没落していく。そんなネガティブなイメージも持っています。実際はどうだったのでしょうか。

 大きな内乱が少ない時代。農民兵を動員して大兵力を動かす制度がなくなり、地方貴族の子弟のみが公認の武力となり、宮廷の一部を除いて、実戦的な兵士がリストラされたそうです。地方警察・治安維持を私兵に民間委託した形で、国家としての直接的な武力は失われていきます。他にも私有地開発の公認で経済再生を図るなど、やっていることは違えど、考え方は現代にも通じるような要素が多いような気がします。

小説

源氏物語(角田光代訳)

お薦め度 

約千年前に紫式部によって書かれた「源氏物語」は五十四帖からなる世界最古の長編物語。日本文学最大の傑作を、小説としての魅力を余すことなく現代に蘇らせた。読売文学賞(研究・翻訳賞)受賞の角田源氏。(河出文庫カバーより)

そもそも源氏物語を知っていますか?

 源氏物語って知っているようでいて、通して読んだことのある人は少ないのではないでしょうか。僕も教科書や試験問題などで一部を読んだくらい。でも、主なストーリーは知っています。大学時代にマンガ「あさきゆめみし」(大和和紀)を全巻読んだからです。「あさきゆめみし」は僕よりもう少し上の世代で大人気だったマンガ。試験でなぜか源氏物語の正答率が高く、どうもみんな「あさきゆめみし」を読んでいたからだというエピソードがあるくらい。源氏物語を古文で読むのはなかなか厳しい。ストーリーを知るには「あさきゆめみし」が一番簡単だと思います。もうちょっと深く読みたい人に、角田光代版の源氏がお薦めです。

 あらためて源氏物語を読んでみると、こんな話だったけ?という部分がいくつも出てきます。大筋のストーリーは同じですが、僕のイメージでは前半の光源氏は完璧超人。できすぎだったイメージがありました。もちろん、超絶美形、芸能にも長け、仕事もできる。たしかに設定は完璧超人なのですが、何事もうまくいくかというとそうでもない。得意なはずの女性の扱いもうまくいかないことがある。悶々と悩む姿は全然超人ではない。「そんなに格好いいかな」と思ってしまいます。

 恋愛の比重も大きすぎます。そういう物語だからといってしまえばそうなのですが、光源氏は官職もあるはずだけれど、どんな仕事をしているのだろう。いつ仕事しているのだろうと感じるほど、ほとんどの労力を男女の関係に費やしているように見えます。まるで、中高生向けの恋愛小説の世界。中高生にとっては恋愛はそれだけ重大なのですが、平安貴族にとってもそうだったのでしょう。戦乱のない比較的平和な時代でもありますし。

 もっとも、それは貴族の話。一般庶民の暮らしはどうだったのか。全く世界観は違うと思います。これが平安のスタンダードではないということは、大河ドラマでも描かれています。

編集後記

 ドラマの影響で舞台としてたびたび登場する石山寺(大津市)まで訪れてしまうなど、夫婦ではまってしまいました。関連の本も何冊か読んだのですが、紹介した作品がおすすめ。「あさきゆめみし」も新装版を買って、読み直しています。今年、入試で源氏物語を出したら、正答率高まるのでは。

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