テリトリーを広げられますか?/ライオンの隠れ家

ドラマ

ライオンの隠れ家(2024年、日本)

 自閉スペクトラム症の弟・美路人と二人暮らしをしている兄・洸人。決まったルーティーンの中であれば問題なく生活できる美路人に合わせ、洸人は凪のように何も起こらない平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、二人のもとに、突如「ライオン」と名乗る小さな男の子が現れ、預からざるを得ない状況になってしまうところから物語は始まる——。慣れないながらもライオンと三人で暮らしていくうち、ライオンが預けられた背景には“ある事件”が関わっていることがわかり、平穏な日々から嵐のような渦にのまれることになっていく。(TBSホームページより)

熊野堂
熊野堂

今期のドラマは爆発的なヒット作はないですが、隠れた良作が多いような。前回の作品と並び注目しているのがこの作品。日常と非日常のバランスが絶妙で、考えさせられるシーンも多い。何より展開が読めない。しばらくドラマを見てないよという人にもお薦め。

お薦め度 

ポイント

・テリトリーを広げられますか?

・自閉症

・子役の実力

・物語の多重性

テリトリーを広げられますか?

 ライオンはネコ科の動物で唯一群れで生活します。群れで生活する様子をプライドと呼ぶそうです。プライドには1~3頭の推すと10頭前後のメス、その子供たちで構成され、縄張りを守って生活しています。このプライド、生活のテリトリーがこの作品の大きなテーマです。

 洸人は、市役所で働く平凡で真面目な優しい青年。両親を事故で亡くしてからは、自閉スペクトラム症の弟と二人で暮らしており、朝は弟と決まった時間に家を出て、退勤後も弟と決まった時間に一緒に帰るという、いつも弟に歩幅を合わせ弟のために生きている。ホームページでも紹介されている主人公兄弟の「プライド」「テリトリー」はこれだけ。ここに「ライオン」が加わり、事件に巻き込まれることで大変なことがありつつも、プライドが拡大していきます。世界が広がるのです。

 みなさんは、プライドを広げられますか。決まったルーティーンの中で、安全な壁に囲まれた生活の方がいいですか?人は何のかんの言っても現状を変えたがらない人が多い。でも、いつだって変えられるし、世界は広げられる。まだ完結してないですが、そんなメッセージが感じられます。

自閉症

  この作品は実力派の役者が多数出演しています。主人公の弟・美路人(みちと)を演じるのは、若手の坂東龍汰。美路人は自閉スペクトラム症の青年で、その特性からコミュニケーションが苦手だったり、こだわりが強かったりします。また、知覚・芸術の分野で突出したセンスを持っており、その能力を活かし、小さなデザイン事務所でアーティストとして働いています。

 この坂東さんの演技がすごい。自閉症の演技って上っ面だけのストレオタイプになりやすい気がするのですが、めちゃくちゃ自然なんですよね。どこが違うのか専門的には分かりませんが、本人の意思を感じます。伝わりにくいだけで、本人はいろいろ考えているし、強い意志もある。その「ここにいるよ」と伝える力がすごい。ライオンとの出会いでプライドを広げていく姿も応援したくなります。

子役

 最近はめちゃくちゃうまい子役が多いのですが、ライオンを演じる佐藤大空くんはとにかくすごい。無邪気に遊び回る姿を見せたかと思えば、不安や葛藤などを表情できちんと表現して、画面に引き付けられます。ご飯を食べているところ、散髪されるシーン、いたずらしているところ。子どもってこんなところあるよね、と感じさせれるのはもちろん、その奥にはこんな気持ちがあるよという部分も表現してしまう。ライオンの佐藤くんを見るだけでも、このドラマを見る価値があると言ってもいいくらい。

 子役と言えば主人公を演じる柳楽優弥さんも、いきなりカンヌで賞を取って、そのあとは期待の大きさを感じながら苦労されたそうですが、今や独特の雰囲気を放つ俳優さんになって活躍しています。佐藤くんがどんな大人になるか、じいじ目線で見守りたいと思います。

物語の多重性

 この作品の面白さは、兄弟とライオンによる日常パートと、ライオンを巡る「事件」による非日常パートによる多重性。これが同時に進行しながら、交わっていく。鍵になるのはライオン、週刊誌記者、主人公兄弟の姉、謎のXなど。ほっこりとミステリーが違和感なく同居しています。でも、これこそがわたしたちの生きている世界そのものなかのかもしれません。

 まあ、姉がライオンを守るために仕組んだ失踪劇なんかは、「それ正解?」「もっといい方法ないかな」と思わなくはないですが、とにかく初回から展開がまるで読めない。エンターテイメントのお手本のような作品です。話が進み、日常と非日常のクロスが進む中、物語がどう動くのか。ますます目が離せなくなっています。

編集後記

 2週連続ドラマになってしまいましたが、この2作はどちらも本当にお薦め。僕は普段そんなにドラマを見ないのですが、それでも見たくなるのは作品の力が大きいです。「ライオンの隠れ家」はネットフリックスで配信しているので、今からでも年末でも楽しむことができます。

 

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