生と死を笑って、泣いて考えよう/アンナチュラル

ドラマ

アンナチュラル(2018年、日本)

主人公・ミコトの職業は、死因究明のスペシャリストである解剖医。
彼女が許せないことは、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」を放置すること。不自然な死の裏側には、必ず突き止めるべき真実がある。偽装殺人・医療ミス・未知の症例…。しかし日本においては、不自然死のほとんどは解剖されることなく荼毘に付されている。その現実に、彼女は個性豊かなメンバーと共に立ち向かうことになる。

ドラマ公式ホームページより

 初めて観た時の衝撃は大きかったです。こんな面白いドラマがあるのかと。同じ監督、脚本で夏に映画が公開されるため、再び注目を集めています。ミステリー、ヒューマンドラマ、社会派ドラマ好きは必見。それほど石原さとみファンではないけれど、このドラマの彼女は、好みを超えていいです。一気見にできる配信が少ないのが難点でしたが、いよいよネットフリックスでも配信開始。みなさん、必見です。

お薦め度 

ポイント

・犯人捜しでないミステリー

・巧みなストーリー

・文学との共通点

・石原さとみ

犯人捜しでないミステリー

 ざっくりしたジャンルで言うとミステリー、それも法医学ミステリーなのですが、犯人捜しが目的でないところがまず新しい。主人公の所属する「不自然死究明研究所(UDIラボ)」は、名前の通り、死の原因を突き止めるのが仕事。基本的に犯人が誰かや、動機などは関係ありません。最近では殺人など凶悪な事件が起きない日常ほのぼの系ミステリーも多いですが、「死」から始まるこの物語はそうはいきません。犯人を見つけてハッピーエンド、どころか、明らかになった真相からいろいろな不幸が生じるかもしれないという理不尽さ。

 でも不自然死の大半が解剖もされずそのまま処理されている中、死を調べることはその人の「生」を調べること。死因を究明することは、未来の誰かを救うことにもつながる。この設定がすごく生かされています。

巧みなストーリー

 基本1話完結のストーリーですが、1話ごとの構成とシリーズを通した流れ、取り上げられるリアルな社会問題(長時間労働、男女共同参画、いじめなど)、各キャラクターの配置など、脚本のすばらしさは圧巻です。どんなに考えて作っているのか。物書きの末端にいる者としては、その力量に驚かされます。

 例えば第8話。雑居ビルの火災で10体のもの遺体が運ばれます。そのうちの1体は焼死する前に後頭部を殴られていた可能性があることが分かります。腰にはロープで縛られていたような皮下出血も見つかり、単なる火災ではなく殺人を隠すための放火だったのか…。この謎を解く筋がメインとしてありながら、1年半前に亡くなった妻の死を受け入れない老人のエピソード、そして主要キャラクターの1人である六郎の親子関係、葛藤と成長が絡み合いながらクライマックスへと進んでいきます。謎の遺体も実は親子関係が絡んでいるのですが、六郎親子との対比、六郎とUDIとの関係など。笑って、泣いて、少し元気が出る。これだけさまざまなエピソードを破綻なくつなぐのは本当にすごいです。

文学との共通点

 良質の文学作品は「私」と「社会性」「普遍性」が共存しています。私のことでありながら、社会のことである。社会のことでありながら私のことである。前項でも触れましたが、とにかくこのストーリー運びが素晴らしい。一転、二転する展開もエンターテイメント性が高いだけでなく、その理由に深さがあります。

 そして、普遍性をしっかり見つめた作品は時に予言ともとられます。第1話は感染症にまつわる話で、そのパニックした報道、市民の混乱はコロナを予言していたかのようです。公開が18年なので、当時はコロナがまん延するなんて、私も含め、ほとんど人は思っていませんでした。ただ「すごいドラマだな」と思って見ていただけです。今見返すと初期の感染者バッシングのひどさは日本各地、僕の地元で起こったものと全く同じです。今はすっかりコロナを忘れたような生活をしていますが、また感染症はきっと起こる。学びがなかったことに反省し、あらためて勉強させていただきました。

石原さとみ

 主演の石原さとみは、10代でデビューした当初は優等生のいい子ちゃんキャラだった気がしますが、いつの間にか随分キャラ変していきました。僕は騒々しい人は苦手で、石原さとみが演じることが多いタイプ(本人のキャラはもちろん知りませんが)は苦手なのですが(上から目線ではありません)、この作品はその辺を絶妙に抑えながら、彼女の美しさを存分に引き出している感じがします。石原さとみ出演の作品はほんの一部しか見たことがないですが、この作品の彼女が一番だと勝手に断言しておきます。

 他にも井浦新や松重豊、窪田正孝、大倉孝二らレギュラー陣がはまり役。キャラクターの配置も絶妙で、こんな職場なら働いてみたいような、みたくないような。

編集後記

 ドラママニアではないので、評論できるほど数を多く観ていませんが、ここ10年で見た中で、トップ3に入る面白さでした。体調が悪くて、家に籠っていた年明け、一気見してあらためて思いました。1話完結なのに、続きがとにかく観たくて仕方なくなる。同じ脚本、監督コンビによる映画「ラストマイル」の公開も待ち遠しいです。

 

 

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