中央公論6月号(中央公論社)
創刊130年超、日本最長寿雑誌『中央公論』。幅広い知識人、論客、各界のキーパーソンを迎え、政治、経済、国際情勢、教育、医療、科学、文化など、変化の激しい時代を生き抜くために最先端の「知」と歴史の教訓をお届けします.
中央公論.jp公式より
最近、雑誌を読むことはほとんどなかったのですが、「なぜ地方では生きられないのか」という特集に惹かれ手にしたところ、他にも興味深い題材がごろごろ。この出会いが雑誌の魅力ですよね。中央公論なんて読んでいたら、「意識高い」と揶揄されそうですですが、意識高くて何が悪い。知的探検をしたい方にお薦め。
お薦め度
東京再膨張
「地方消滅」。全国の地方に衝撃を与えた予測から10年。消滅可能性自治体の存在を指摘した増田寛也元岩手県知事と神戸大の砂原庸介教授が対談している。「地方創生」が地方自治体同士の人口の奪い合いになり、子どもへの優遇政策でチキンレースを繰り広げている。砂原教授は子育て支援の効果には疑問を持っている。熱心と言われる兵庫県明石市と神戸市周辺の自治体を比較すると、明石市で人が増えているのは明らか。でも、他地域のベッドタウンも明石市と同じくらいの伸び率がある。条件によって増える自治体は増えるし、増えない自治体は増えない。政策の効果は分からないが、他がやっているのでやらざるを得ない状況になっているという。
そんな中で興味深い町づくりの取り組みも紹介している。山形県遊佐町の少年議会は、次世代の子どもにどうお金を使うか考えてもらい、実際に予算をつける。徳島県神山町はIT企業の移転で有名だが、ついに高等専門学校の開校にまでつながった。人口4800人の小さな町で異例のこと。岡山県真庭市は木質バイオマス、木造建築で有名。山形県鶴岡市は市内にある慶応大学先端生命科学研究所の力をうまく使いいろいろな企業が建ち始めているという。
これだけ人口が減少しても自治体間の連携は難しい。「自前主義」が根付いているためだという。連携が必要な部分はいかに専門家に任せられるかが問われているという論調も納得できる。
ノンフィクションの未来
ノンフィクションが冬の時代と言われて久しい。ノンフィクションの未来について語る企画が面白い。雑誌は売れないし、若手を育てる余力がない。ただ、まったくノンフィクションが没落しているかというと、そうでもない。需要はある。ネットフリックスでは人気のドキュメンタリー番組がいくつかある。アメリカのドキュメンタリーは、ストーリーがきちんとできていてドラマ仕立て。元毎日新聞記者の石戸さんは「いい意味で、日本のノンフィクションはまじめ過ぎると感じる」と指摘している。ノンフィクションであっても視聴者、読者を引き付ける工夫が必要だというのは納得できる。
最近は本人が発信することを「公式」と呼ぶ傾向があるが、いろいろなチェックを受けて事実が確認できたものが本来の公式。当事者でさえ、うまく語れないからこそ、聴き手、ジャーナリストの存在が必要なのである。被取材者と対話する中で、揺れ動くものをどう捉え、記述し、検証していくか。ノンフィクションの書き手にとって、今最も必要なことという言葉は、書き手として刺さる。
安倍とライバル
安倍元首相の銃撃事件からもう1年がすぎた。安倍晋三氏について国民民主党代表代行の前原誠司氏と参院議員の辻本清美氏が対談している。2人は安倍氏は観念論の人という点で一致。前原氏は政策的には安倍氏と共通する部分もある。だが、理より観念論の人で、そこは合わないし、議論にならないと。一方で、心配りのある人で、人たらしではあると振り返っている。辻本氏は基本的に相容れないが、それでも亡くなったという第一報を聞いたとき、安倍氏の笑顔が浮かんだという。安倍氏の後の首相、菅、岸田氏との議論は物足りない。安倍氏は自分の主張を持って反論していたのでまだやり取りがあったという感想も2人に共通している。
対談のタイトルが「強敵」を語るになっているが、安倍氏から見て2人が強敵だったかどうかは怪しいが、2人にとっては好敵手だったのだろうというのが伝わる。
編集後記
今売れている雑誌はあるのだろうか。効率よく情報を得る時代。雑誌はアナログ的で、受けないかもしれない。でも、久々に手にとってみて、好奇心を刺激された。特集テーマと全く関係のない坂本龍一の話や「エブエブ」、「シン」の流行などさまざまな切り口が面白い。ネット検索ではたどり着けない知の探検が楽しめた。