異世界なら頑張れるのにと思っている方へ|月の影 影の海

処方

十二国記シリーズ

「月の影 影の海」(小野不由美)

効能・注意

・ファンタジーを通じて、現実と向き合えます。

・モラトリアムから卒業できます。中年以上の方にも効能は期待できます。

・物語は苦難の連続で読む方の精神力も必要です。

こんな話

 女子高生の陽子の前に、ケイキと名乗る男が突然現れ、海を抜けて、地図にない異世界に連れ去る。ケイキとはぐれ、1人で彷徨う陽子は出会う人に裏切られたり、異形の獣に襲われたり。なぜ、異世界に連れてこられ、戦わなければいけないのか。過酷な世界でつかんだ生きる意味とは。異世界「十二国」を舞台に繰り広げられる、壮大なファンタジーの第1弾です。

強くなりたい

 「裏切られてもいいんだ。裏切った相手が卑怯になるだけで、わたしの何が傷つくわけでもない。裏切って卑怯者になるよりずっといい」。現実世界でうまくいかない、認められないと思っているが人が、異世界に行ったところでそう簡単にヒーロー、ヒロインになれるでしょうか。全く知らない世界でむしろ、もっと苦労するのがオチですよね。ヒロインの陽子は次々苦難に遭い追い詰められていきますが、やがて人として成長を見せます。

 誰も親切にしてくれないからといって、人を拒絶していいのか。絶対の善意でなければ、信じることができないのか。人から優しくされなければ、人に優しくすることができないのか。「そうじゃないだろう」。こう言える強さを持ちたいですね。

専制政治と民主政治

 

 私たちは民主政治が当たり前と考えていますが、実は歴史はそう長くない。そして、いろいろな欠点も抱えている。決定には時間がかかるし、必ずしもその状況に適切な政治が支持されるとも限らない。停滞感のある時ほど「この人に全部任せればいい」とそれこそ君主のように強力なリーダーを求めがちです。

 優れた専制政治ならドラスティックに世の中を改革することができるかもしれません。でも、優れた君主が道を誤らないとは限らない。そして、必ず命は尽きる。次の君主も優れている可能性はかなり低い。万能の政治体制はまだ発見されていません。

 十二国では、天意を受けた霊獣である麒麟が王を見出し、玉座に据える。選ばれた王が永遠の命を得て国を治め、麒麟が補佐します。しかし、「道」を誤れば、その命は失われます。そして、麒麟が次の王を探す。専制政治の欠点をかなり補っていますが、それでも長期に安定する国は少ない。人の生き方だけでなく、国のあり方も自然と考えさせられます。

もしも異世界に行ったなら

 

 子どもの頃、勉強もスポーツもできない僕は、いつか異世界から使者が来て「実はこちらが本来の世界でした。あなたが必要です」といわれるような展開に淡い期待を持った妄想少年でした。思えばできないことを他人のせいにして、逃げていたんですね。

 使者は現れず、現実の世界で何とか自分の居場所を作ってきました。とんとん拍子とは程遠いですが、目的地が遠いからといって、歩き出さなければいつまでもたどり着けないとゆっくりでも前に(時に後ろに)進んでいます。それでも、何かに頼りたい、他人のせいにしたいことは出てきます。

 お願いなんてしないという陽子の友人、楽俊の言葉。「試験なんて勉強すれば受かるし、金なんて稼げば貯まる。いったい何をお願いするんだ?」

はい、耳が痛いです。

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