ポジティブは好きですか?/リズム

小説

リズム(森絵都)

優しくせつなくたくましく素敵な大人に近づいてゆくステキな女の子たちへ

ガソリンスタンドで働きながらロックバンドで歌をうたう、いとこの真ちゃん。そんなハデな真ちゃんに、まゆをひそめる人もいるけれど……。小さいころから大すきだった真ちゃんの家族が、ばらばらになってしまうかもしれないと知った、さゆきは……。
講談社児童文学新人賞。椋鳩十児童文学賞

熊野堂
熊野堂

児童文学ってどんなだっただろう、と思いつつ手にした作品。小中学生に寄り添いつつ、甘い夢だけでもない。児童の時代にこういう作品に触れることは大事かな。読書が苦手な子どももこれなら入りやすいかも。

お薦め度 

ポイント

・自分のリズム

・目的地は変えられますか?

・ポジティブは好きですか?

・作文

自分のリズム

 ヒロインは中学1年生。周りと自分が気になる年です。いとこの真ちゃは同調圧力に屈せず我が道を進めるタイプ。高校に行かずバイトしながら、バンドをやるのはなかなか。もし、誰もがそれぞれのリズムを持っていて、そのリズムで生きられたら素敵だとは思います。自分のリズムで生きるということは、他者のリズムも尊重するということ。その点でも真ちゃんは好青年。まあ、ほとんどの人が周囲を気にしすぎて、自分のリズムを発揮できないでいるので、尊重するのは自分のリズムを見つけてからでいいのかなと思います。もっとも、自分のリズムが世界のリズムと勘違いしている人が結構多いのですが。

目的地を変えられますか?

 真ちゃんの兄やヒロインの姉は、真ちゃんのように自由ではありません。決められたコースをまっすぐに進みたい人。ヒロインの姉は真ちゃんに批判的ですが、それは自分ができないことをしていることに羨望もちょっとある。「川に行こうと決めたら、しんどくても、当初の目的を忘れても、とにかく川にたどりつかないと嫌」という兄と姉、川に向かっていたのに途中で目的地を変えられる真ちゃんとヒロイン。あなたはどちらは派ですか?僕はどちらかといえば後者ですが、きっとどっちの要素も必要なんだと思います。目的地は変えてもいいんです。でも、困難でもどうしてもたどり着きたい場所があるなら、チャレンジを続けてもいい。そんな柔軟さが必要です。

ポジティブは好きですか?

 「雨が降るから虹が出る」

「なに、それ」

「苦しいことがあるからこそ、嬉しいことがあったときの喜びも大きいんだって」

 「絶望の隣は希望」「明けない夜はない」「やまない雨はない」。ポジティブな言葉は数多くありますが、好きな言葉はありますか。それとも、苦手ですか。

 真ちゃんは基本ポジティブです。状況は決してポジティブにも見えないけれど、自分のやりたいことが分かっていて、そのために必要なことをしている。「夢を力づくでかなえるために新宿にいく」というセリフも真ちゃんらしい。

 「やりたいことをやるために生まれてきたんだから」。戦時中も令和の世も。生きている人はみんな切実さの度合いこそ違えど、悩みがあります。いや主観的な切実さは差なんてないのかもしれません。ポジティブな言葉が響くかどうかは、その人が自分で何かをつかんだことがあるかどうかにかかっていそうです。

作文

 ヒロインは夏休みの宿題である作文を友達に書いてもらうのですが、「家族でアフリカ旅行」「ターザンに出会った」など、かなりユニークに書かれてしまい、冷や汗を書くシーンがあります。

 僕も大学時代、論文の代行執筆をやっていました。1本3千円。勉強はそこそこできるけど、論文を書くのは苦手という学生は結構多くて、口コミで代行サービスが広がり、結構忙しかったです。中にはこの作文のように一見とんでもない設定に見えて、実は結構鋭い(自画自賛)の論文もあって、優をいくつも取っています。ワープロが広まっており、手書きでなかったのも有利に働きました。

編集後記

 短くて、サクサク読める。そして、誰もが通る道をストレートに描いている。夏休みに読書感想文を出さないといけない、という小中学生にお薦めできる1冊です。無人駅で自由にお持ち帰りくださいと置いてあった本なのですが、結構掘り出し物。他にも無人駅で入手した本があるので、読むのが楽しみです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA